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将棋PRESSBACK NUMBER
「初の女性棋士ならず」で埋もれるのは惜しすぎる…観戦棋士が見た西山朋佳vs柵木幹太の舞台裏「しびれた。手が伸びてるね」「妹弟子も棋士室に」
text by

勝又清和Kiyokazu Katsumata
photograph byKeiji Ishikawa
posted2025/02/01 06:00
棋士編入試験第5局での西山朋佳女流三冠。棋士が見た「初の女性棋士ならず」で埋もれるには惜しい舞台裏とは
持ち時間は3時間、1分未満切り捨て、先後は柵木先手と決まっている。
後手の西山が得意の三間飛車に振ったのに対し、柵木は居飛車急戦の構え。早い1筋の端歩突きなど、明らかに研究手順ですよという組み立てだ。西山は仕掛けを警戒して慎重に駒組みし、高美濃ではなくバランス型の駒組に。柵木は仕掛けを見送り、天守閣美濃から銀冠にがっちりと組む。
西山が△6五歩と位を取った所で昼食休憩になった。東京を午前中に出発した私は、休憩明け頃に高槻の会館に到着。ちょっと対局室を覗くと、鋭い表情で柵木が盤をにらんでいる。「鬼気迫る」とはこのような表情をいうのだろう。
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柵木とは、彼が奨励会三段の頃、子ども将棋合宿で一緒に指導の仕事をした。彼はとても賢くて(名古屋大学工学部→名古屋大学大学院工学研究科と言われて驚いた)、子どもへの指導も優しく、とても柔和だった。あのときとは別人だ。三段リーグでは苦戦していたが、ぜひとも棋士になってほしい人材だと思っていた。
「しびれたね。柵木くん、手が伸びているね」
さて棋士室に入り、この将棋の立会人を務める畠山鎮八段に挨拶する。
「朝の様子はどうでしたか」
「柵木くんは朝から気合が入っていましたね。西山さんは普段と変わりありませんでした」
注目の対局とあって、棋士室には大勢の棋士が集まっていた。今泉健司五段もその一人だ。今泉もまた2014年に編入試験を経験している。そこで彼は合格し、史上最年長の41歳で棋士になった。
「西山さんとは縁があってね。私は棋士編入試験第4局で石井さん(健太郎七段)に勝って3勝1敗で合格したんだけど、その対局の記録係が西山さんだったんです」
今泉と現在の局面について検討する。先手・柵木は6五の位を目標にしたいが、歩をぶつけるか、桂を跳ねるかの二択だ。桂を跳ねると自玉も弱体化するので、歩をぶつけるのではと私が言うと、今泉は「気合よく桂跳ねでしょう」と強く主張した。柵木が桂を跳ねるとやっぱりねという顔をする。今泉好みの気合重視の勝負になりそうだ。
対して西山は3筋を突き捨てから角を引いたが、その瞬間に柵木の▲4五歩がうまいタイミング。「これはしびれたね。柵木くん、手が伸びているね」と皆が指し回しをほめた。
「この日のために準備を」「将棋界は競争は厳しいねえ」
棋士室を訪れた井田明宏五段に話を聞くと、柵木は前日に振り飛車党の棋士・奨励会員と研究会をしたそうだ。
「彼はこの日のために準備していましたよ」
畠山は、第4局の試験官だった宮嶋と柵木の話をしてくれた。

