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ヤクザから転身した“元祖・入れ墨ボクサー”は今…「引退後は俳優、24歳下の女優と結婚」大嶋宏成(50歳)が弟と振り返る激動の人生
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph byShiro Miyake
posted2025/01/27 11:04
ともに極道の世界に足を踏み入れた過去をもつ大嶋宏成(右)と弟・記胤。ボクシングとの出会いが運命を変えた
好戦的なファイタースタイルで、派手なKO勝利を積み重ねていく。1998年にはライト級で全日本新人王を獲得。その経歴に注目したメディアにも取り上げられ、デビュー早々のボクサーとしては異例の早さで後援会も立ち上がる。
「今日は倒せなくてすいません」
試合後は思いのままに感情も吐き出した。リングで気迫を前面に出し、絶対に倒すという強い意思が観客席にまで伝わる宏成のボクシングは、後楽園ホールに足繁く通うファンの心も掴んだ。2年半で11戦をこなし、ライト級の日本タイトルマッチまでたどり着いた。
薬物で逮捕…「兄貴が羨ましかった」
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一方の記胤は、鬱積とした日々を過ごしていた。
暴走行為で1度目の少年院に入ると、17歳の時に覚せい剤取締法違反で逮捕されていた。19歳でシャバに戻り、親代わりだった祖父の病床を訪れると「ヤクザものがきた」と顔を背けられた。この時、極道の世界から足を洗うことを決意する。強要はされなかったが、ケジメとして自ら小指を切り落とした。
前科持ちで小指もない男を雇うところがあるわけない。そんな思い込みもあり、出所後も仕事を探す気力はなく、繁華街に繰り出しては喧嘩に明け暮れた。皮肉なことに兄がKOを重ねていくごとにその頻度は高まり、相手がヤクザ者であろうがただ感情のままに食ってかかった。記胤がいう。
「とにかく兄貴が羨ましかった。華やかな世界で自分も輝きたい、と思っていてもその一歩が踏み出せない。カタギとはいえない今の生活から抜け出したいけど、何をしていいか分からない。そんな日々でした」
入れ墨と向き合い、自らの道を見つけて脚光を浴び始めていた兄に対して、言い表し難い感情の紋が弟の心には募っていた。
〈第2回に続く〉