ボクシングPRESSBACK NUMBER
ヤクザから転身した“元祖・入れ墨ボクサー”は今…「引退後は俳優、24歳下の女優と結婚」大嶋宏成(50歳)が弟と振り返る激動の人生
text by
栗田シメイShimei Kurita
photograph byShiro Miyake
posted2025/01/27 11:04
ともに極道の世界に足を踏み入れた過去をもつ大嶋宏成(右)と弟・記胤。ボクシングとの出会いが運命を変えた
出所した宏成は大阪で防水工事などの仕事をしながらボクシングジムを訪ね歩いた。父には4回戦のボクサーとしての過去があった。そんな父が面会に来た際、息子にこんな言葉をかけたという。
「お前はセンスがあるからボクシングをやったらいい」
父との記憶は苦いものが大半だ。しかし、この時の言葉は宏成の中に今でも鮮明に刻まれている。ボクシングに関しては、後の手術費用を工面してくれるなど寛容だった。
皮膚を移植して入れ墨を消す
ADVERTISEMENT
日本ボクシングコミッション(以下、JBC)の規定では、入れ墨がある者にはプロライセンスは交付されない。大阪でも、東京に移ったあともいくらジムを回っても宏成の胸や腕を見ると渋い顔をされた。そんな中で唯一、輪島功一スポーツジム(杉並区)だけが好意的だった。
後に輪島功一は、当時のJBCのルールを正確に把握していなかったと明かしている。それでも、練習場所すら満足に与えられなかった宏成にとって、粋な心遣いは胸に染みた。毎日ジムに通い、汗を流すことが習慣となった。その様子をつぶさに見ていたのが、以降トレーナーとして、師弟として長い年月を共にするシャイアン山本だった。
後日、シャイアンと共にコミッションに相談に行った。すると、JBCにこう告げられた
「胸の部分だけは消さないと許可は降ろせない」
すぐに都内の病院で入れ墨除去手術の相場を調べた。気軽に支払える額ではなかったが、皮膚移植の場合は200万ほどで可能だと知る。ボクシングで成り上がっていくしかない――宏成の決意は固かった。自らの臀部と太ももの皮膚を剥ぎ取り、両胸に移植した。
手術後、ほんの少しの上半身を動かすだけで皮膚を貼り合わせた箇所に激痛が走った。しばらくは寝たきりの生活が続く。ようやくボクシングが出来るまでに回復したのは、手術から半年が過ぎてからだった。
肉体労働の傍らジムに通い続けて1年、プロテストをパスし、念願のライセンスが交付される。22歳の宏成は、リングで自身の価値を証明したいという願望に燃えていた。
「他の仕事をしても続かない。自分にはボクシングしかない、と覚悟があった。絶対に成り上がってやるんだ、と。デビュー戦から凄く注目してもらって、これで弱いと格好がつかない。笑い者ですよ。とにかく必死に練習していました」