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父・桜庭和志から言われた「とにかく攻めろ」 桜庭大世のRIZINデビュー戦“衝撃の26秒KO”はなぜ起きた?「自分も修羅場を経験したい」 

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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photograph byRIZIN FF Susumu Nagao

posted2025/01/01 18:27

父・桜庭和志から言われた「とにかく攻めろ」 桜庭大世のRIZINデビュー戦“衝撃の26秒KO”はなぜ起きた?「自分も修羅場を経験したい」<Number Web> photograph by RIZIN FF Susumu Nagao

MMAデビュー戦で矢地祐介からKO勝利を収めた桜庭大世

 家にいる父親というのはそういうものなのかもしれない。息子の記憶に残っているのは、闘う父よりも試合を終えてリラックスする父の姿。その強さを知るのは格闘家を目指して一緒に練習するようになってからだ。

「50過ぎてるけど奥深いんですよ、強さが。どれだけスパーリングしても本気にさせることができない感じで。底知れないというか。息子が相手だからムキになって隙を見せないようにしてるのかなって気もします。他の人にはポジションを取らせたりするんですけど、僕にはそれもないんで。寝技はおじさんが強いですね。パワーじゃなく経験値がものを言うんだと思います」

「もし僕がスーパースターになる人間なら、勝てると思います」

 2023年、父がプロデュースするグラップリングイベント『QUINTET』で柔道の内柴正人に一本勝ちすると、K-1のアマチュア大会で打撃にも挑戦。そして今回、RIZIN初参戦とMMAデビューが決まった。

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 対戦したのは矢地祐介だ。五味隆典や朝倉未来とも対戦した34歳。ベテランと言ってもいいキャリアがある。記者会見では「いい子ではありますけどデビュー戦の相手ですか……」と複雑な心境を語った。

 大世もその言葉を受け止めた。曰く「親の名前があるから出られるんだってことは分かってます」。それはQUINTETに参戦する時から言っていたことだ。

「ボンボン、バカ息子と思われるでしょうけど、それを覆したいです」

 桜庭和志の息子である以上、格闘技を生業に選んだら何を言われても仕方がない。そこは諦めているし、反骨心の源にもなる。

「人よりチャンスをもらえるのは間違いないので。言い方を変えたら(父を)利用してるんですし。批判されても勝てばいいだけです。何も言われないのが一番嫌ですもんね。僕は“褒められても叱られても伸びるタイプ”だと思ってるので(笑)」

 戦力を比べれば、矢地が圧倒的に優位。実力でRIZINに出られているわけではないのも承知の上。それでも大世は言った。

「もし僕がスーパースターになる人間なら、勝てると思います」

わずか26秒の“衝撃KO劇”

 入場曲は父と同じ『SPEED TK RE-MIX』。SAKUマシンのマスクも着用。“七光感”満載のリングインだ。傍には当然、父がいる。

「お父さんのファンの人にも僕のファンになってほしい」

 悪びれずに言う大世。しかし本当の意味で父から受け継いだものは、試合が始まってから出た。

 蹴りの攻防から大世が左のミドルキック。これを矢地がキャッチする。カウンターを狙っても足を刈ってのテイクダウンでもいい。いずれにしても矢地有利な形だ。

 そう思った次の瞬間、片足で立ったままの大世が左ストレート。足を掴んだ矢地の顔面はガラ空きだった。ダウンした矢地にすかさず追撃のパウンドを落とし、レフェリーストップ。1ラウンドわずか26秒でのビッグ・アップセットだった。

【次ページ】 父・桜庭和志の採点は「80点」

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