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「内臓がギュッと掴まれてる感じ」フィギュア鍵山優真を襲った“スゴい緊張”…悔やむ鍵山にコストナーコーチの励まし「あー、全日本優勝したい!」
posted2024/12/13 17:00
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
AFLO
シーズン前半の世界一決定戦であるGPファイナル(12月5-8日、フランス)で銀メダルを獲得した鍵山優真(21)。栄えあるメダルを胸に、口に出たのは、意外にも弱気な発言だった。
「昔からネガティブな性格だったんですけど、今年は特にそう。北京五輪シーズンや去年は、結果はあまり求めずに、ただ上だけを見て全力でやっていました。でも今年は何かちょっと違う感じがあります。イリア(・マリニン)選手とより比べられたり、距離感を気にしたり、色々と考えることが多くなっています」
鍵山優真は何と戦っているのか
彼が心の中で戦っているものとは、何か。心の変化を追った。
振り返れば、9月末に行われたシーズンインの会見のときから葛藤は始まっていた。“宇野昌磨が引退し、日本の新たなエースとなる心境の変化は”と質問されると、こう答えた。
「決して僕1人で日本を引っ張っていくわけではなくて、今の時代はみんなでスケートを切磋琢磨して盛り上げていくのかなと思います。僕は自分のやるべきことを見失わずに、どんな試合でも自分に集中したいです」
実質的には日本男子のトップにいながら、エースと呼ばれることを避けようとしていた。
しかしいざシーズンが始まると、世界王者マリニンと比較されるのは、他の日本男子ではなく鍵山だった。矢面に立たされ、プレッシャーだけはのしかかってくる。NHK杯では300点を超えたものの、フィンランディア杯は珍しくフリーで4つのミス。演技後は号泣し「気持ちが弱かった」と吐露した。
その3週間後となったGPファイナル。公式練習に現れた鍵山は、すっきりとした笑顔に戻っていた。マリニンと同じグループで練習しても、彼のことが気にならなかったほどだ。
「自分のことに集中していたので、全然周りは見ていなかったです。自分がシニア上がりたての世界選手権や五輪は、自分より上の存在の人しかいなくて、自分自身のやるべきことにしっかりと集中できていました。あの頃の初心を思い出したいです」
迎えたショート。冒頭の4回転サルコウは転倒したが、すぐに立て直して演技をまとめた。いつも通りのスピード感となめらかさのある演技で2位につける。すぐにミスの原因を分析した。
「GPファイナルというお祭りの舞台を楽しもうという気持ちでした。今日のミスは緊張のせいではなく、少し重心の乗せ方がずれてしまっただけ。みんなが自分自身との勝負に一生懸命になっているのを見て、僕も『自分に勝とう』という気持ちになれていました」
周りと比較するのではなく、自分に勝つーー。その気持ちを保っていた鍵山が、ちょっと首を傾げたのは、スコアシートを見たときだ。NHK杯では9点台だった演技構成点(PCS)が、8点台。しかも全選手に対して厳しかったわけではなく、マリニンは9.04~9.36と高評価を得ていた。
「内臓がギュッと掴まれてるような感じ」
「ショートでは8点が出てしまったのは、なんでだろう、という思いがあります」
悔しそうにつぶやく。マリニンにPCSで超されたのは、初めてのことだった。