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「ソフトバンクから移籍させてくれ」は本当か? 契約サイン保留直後、リチャードが2度口にした“ある言葉”…じつはプロ野球界の問題「飼い殺し」とは
text by
田尻耕太郎Kotaro Tajiri
photograph byKYODO
posted2024/11/29 06:03
ソフトバンク25歳の大砲、リチャード。契約更改でサイン拒否した理由とは
そもそも長距離バッターの育成は難しいとされる。もし、リチャードを目先の結果にとらわれない環境に置いて勝負させたら、一軍でどれくらいの成績を残すだろうか。それを確かめてみたいと考えるのは、本人だけにとどまらないはずだ。
じつはプロ野球の大問題「保留制度の闇」
このような“移籍志願”とか“トレード直訴”という言葉は、過去の球界でもたびたび聞かれた。
たとえばサッカー界では選手移籍が活発に行われるし、一般社会に置き換えればある程度は個人の自由で同職種への転職活動もできる。しかし、日本のプロ野球(NPB)には「保留制度」というものが存在する。
保留制度とは、球団の保留名簿に記載され、球団が保留権を有する選手については、国内外を問わず、選手が他球団に移籍するための契約交渉や練習参加等も行うことができないとする制度のことだ。その中で、選手が自らの意思で移籍を可能とする唯一例外となっているのがフリーエージェント宣言である。
ただ、プロ野球選手会は移籍の活性化を従前より訴えており、出場機会に恵まれないいわゆる“飼い殺し防止策”として、2018年7月より「現役ドラフト」の議論が開始された。そして2022年12月に第1回現役ドラフトが行われた。一昨年と昨年の2度の開催だけを見ても、一定の成果を収めていると十分言えるだろう。
しかし一方で、過去2年は“最低限”の運用にとどまったのも事実。各球団は2名以上のリストを提出しているにも関わらず、全球団が1巡目で指名を終えている。
球団側の立場で考えれば、自チームのスカウトが必死になって探してきた金の卵をじっくりと育てている真っ最中で、選手の才能をほかの誰よりも信じているわけだから簡単に手放したくない気持ちはよく理解できる。
どちらにも真っ当な主張があるのだから、選手と球団の双方が完全満足する解決策というのはなかなか見つからない。
現役ドラフトが導入された後の今年も〈7月のオールスター期間中に行われたプロ野球選手会の臨時大会で、NPBと断続的に話し合っている保留制度が独占禁止法に反するとして、公正取引委員会への申し立てを検討していることが明らかになった〉と報じられている。
その後の続報は特にないが、今回のリチャードの一件は少なくとも球界全体としてこの問題から目を背けてはいけないと示してくれたのは間違いないところだ。