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「さみしいですね…」引退した貴景勝がつぶやいた…“同じ日”、ひっそりと現役引退した45歳ベテラン力士がいた「15歳から30年間の力士人生」「地元福井に帰る」
text by
佐藤祥子Shoko Sato
photograph byMiki Fukano
posted2024/11/26 17:01
9月場所で現役引退した序二段力士、越ノ龍(45歳)。30年の力士生活に別れを告げた
整髪中で師匠の賛辞を聴くことが叶わなかった越ノ龍だったが、まるで師匠の言葉に呼応するように、
「このような断髪式を開いていただき、まずは藤島親方に感謝申し上げます。(中略)自分はいなくなりますが、これからも藤島部屋を応援してくだされば幸いと思います」
と謝辞を述べ、師弟の絆を垣間見せていたものだ。
15歳での上京以来、ゆっくり顔を見ることが叶わなかった、年老いた両親のいる地元福井に帰ることを決めた。相撲界で腕を磨いたちゃんこ料理を武器に、飲食店で働きながら、親孝行をしたいという。30年にわたる相撲部屋の“大部屋暮らし”から脱出し、実家近くのアパートでの初めての一人暮らしも始まった。
「そうそう、車の免許、取れましたよ! 実家に戻ってからは目の手術や、蜂窩織炎などが今になって出てしまっていますけど、今はゆっくり治せますから。相撲は、テレビで観てますよ。藤島部屋の子たちだけですけどね(笑)」
現役時代にこつこつと貯めていた“500円貯金”で、ちょっと高価な特大ソファを購入し、手足を思い切り伸ばして弟弟子たちの活躍を見守っているという。
「年齢で相撲を取っていたわけではない」との、元大関の言葉が蘇った。
番付は違えど己の「相撲道」を貫いたふたり。
ちゃんこの味が染みわたった“大兄弟子”は、30年の歳月を掛けて思い残すことなく、晴れて今、「相撲大学」を卒業したのだった。