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牧秀悟の“劇的満塁弾”を呼び込んだ辰己涼介の打席「神は降りてきてないな…とにかく牧につなぐと思って」《侍ジャパン逆転劇の舞台裏》
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2024/11/23 17:00
プレミア12ベネズエラ戦で勝負を決める満塁本塁打を放った牧秀悟。この一発の前にポイントとなった辰己涼介の打席とは…
1次ラウンドのキューバ戦でソフトバンクのL・モイネロ投手から右肘に死球を受けて球場から病院送りとなり、一時はスーパーラウンドの出場も危ぶまれた。しかし骨には異状はなく、打撲で米国戦から元気に復帰。本人曰く、あのモイネロに死球を受けたことで、逆に集中力が一気に高まってスーパーラウンドに乗り込んできているのだという。
その言葉に……ウソはない。
スーパーラウンド初戦の米国戦でマルチの2安打。この試合でも1回にまずは試合を動かす先制打を放った。
1死二塁からの左越えタイムリー二塁打。ベネズエラの先発、R・ピント投手に追い込まれながら外角寄り151kmを逆らわずに打ち返した。
「会心の一撃ではなかったですけど、台湾ドームなら入っていたと思います」
そして4回にも全力疾走で一塁内野安打を放って、迎えた6回の第4打席だ。
2死一塁。ここで打線が切れてしまえば、盛り上がったムードも一気に萎んで、再び相手に流れがいってしまう難しい場面。逆に言えば最も重圧のかかる打席だったはずである。
それでも辰己はノンプレッシャーだったと、関西弁でこう語る。
「なんかちょっとネジが飛んでもうてるんで。はっきり言って重圧とかプレッシャーとかあまり感じないタイプなので、感じなかったですけどね」
とにかく牧につなぐと思って…
そのノンプレッシャーの頭にあったのは、こんな思いだったという。
「ここではないなって感じがしました。神は降りてきていないなという感じがしたので、つなぐ方(打撃)に切り替えました。とにかく牧につなぐと思って打席に入っていましたが、思い描いた通りになったので良かったと思います」
1ボールからの2球目。インハイの難しい球をバットの根っこで詰まりながらも逆方向に持っていった左前安打だ。
「気持ち? いや技術で持っていったって感じですね。でもたまたまヒットになった感じで、あれは運です。僕は運がいいので」
「井端さんは絶対なんで」
ただ、ただ運が良かっただけはない。
実は大会に入って辰己はこの試合までに7本の安打を放っているが、そのうち6本がセンターから逆方向への打球なのである。
「国際大会は逆方向への打撃が基本になる」
こう語っていたのは現役時代から国際大会で抜群の結果を残してきた井端弘和監督だった。