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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「國學院大はエース平林だけじゃない」全日本駅伝MVP「もう一人の男」山本歩夢の“夢”…箱根駅伝「1区区間賞で同期・平林にタスキ」で初優勝・三冠へ
posted2024/11/08 11:12
text by
杉園昌之Masayuki Sugizono
photograph by
Kiichi Matsumoto
東海道新幹線が一時ストップするほどの大雨も落ち着いたレース前日の静かな夜。全日本大学駅伝の6区にエントリーされた國學院大の山本歩夢に1本の電話が入った。スマートフォンの画面に目を落とすと、着信は同期の平林清澄である。
「ほかの出走するメンバーにはLINEでメッセージを送ったようなのですが、僕には直接、電話をかけてきたんです。珍しく緊張している風でしたね。いつもは明るく『一緒に優勝しような』という感じなのに声のトーンもどこか少し暗くて……。注目度が高くなり、エース、主将の重圧を感じていたのかなって。あいつも人間なんだと思いました」
平林につなぐために
秋晴れとなった11月3日、学生最後となる伊勢路のスタートラインに笑顔で立ち、気合を入れた。前回大会は準エース区間の2区でブレーキ。故障明けの影響で区間11位と苦しみ、順位を4つも落としてしまう。1年前の悔しさを胸に留めてきた。今回、前田康弘監督から与えられた役割は、“つなぎ区間”で前との差を詰めること。先頭と41秒差の2位で野中恒亨(2年)から襷を受けると、自らに言い聞かせた。
「『攻めの駒』として、平林を少しでも楽に走らせてあげようと」
3km過ぎで“差し込み”と言われる脇腹痛が出たときは少し焦りを感じたが、すぐに心を落ち着かせた。左手で右脇腹を何度も押さえているように見えたが、マッサージしながらほぐしていたという。このまま後半まで持っていけば、走れる感覚があった。表情を歪めながらもペースを落とさず、前を走る青山学院大の白石光星(4年)との距離をじわりじわりと縮める。ラストは力を振り絞り、すぐそこに背中が見える4秒差まで迫った。
「7区で平林が待ってくれていることが力になりました。僕がどんな走りをしても、決めてくれると信じていたので。青学大に追いつけなかったのは僕の力不足でしたが、前の背中が見える位置で渡せたのは良かった。自分の仕事はできたのかなと」