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「ポトッ…と黒い水が」男子バレー山内晶大(30歳)“代表引退”発言の真意を語る「まずは絶対優勝」204cm長身ブロッカーが探す違和感の正体
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byKiichi Matsumoto
posted2024/10/31 11:05
SVリーグ初代王者を目指す大阪ブルテオンで主将を務める山内晶大(30歳)。気持ち新たにシーズンをスタートさせた
やるべきことはやってきた。むしろ、やり残すことがないように、イタリア戦の前日まで「完璧だ、という手ごたえをつかみたかった」と、サーブ練習を省いてセッター関田誠大とのスパイク練習に時間を割いた。小さな不安の一つも残らないように払拭させてきたつもりだったが、残ったのは「準々決勝敗退」という事実だけ。
試合の熱が残るコートで集合写真を撮り終えても、まだコートから離れがたくて悔し涙を流しながら「みんなが無駄に居残っていた」。抑えてきた感情が爆発したのは、ふとスタンドを見上げた時だ。満員の観客が拍手する姿が見え、多くの日の丸が揺れていた。
こんなにたくさんの人たちが応援してくれたのに、勝てなかった。もう、終わりなんだ。
溢れる涙を拭いながら歩く先に、パナソニックパンサーズ(現・大阪ブルテオン)で7シーズン、共にプレーした元ポーランド代表の主将、ミハウ・クビアクがいた。同じ年にパナソニックに加入し、プレースタイルから考え方まで「クビのおかげで自分が変わった」と感謝と尊敬を抱く盟友の姿を見つけると、山内の涙腺は崩壊した。
「抱き寄せられて『お前たちはよくやった。お前はすごいプレーヤーだよ』って。そんなこと言われたら大泣きしますよね。一気に爆発して、泣きまくって、終わったんだ、って実感しました」
「じゃあ、もう少し頑張ろうかな」
五輪までの日々はあれほど長かったのに、終えればもうあっという間に2カ月が過ぎた。例年よりは長いと思っていたはずの休みも瞬く間に終えたが、全国各地、会いたい人に会いに行くたび「まだ(日本代表で)やれるだろ」と言葉をかけられた。
「『感動した』とか『また頑張ってよ』と言われると、じゃあもう少し頑張ろうかな、と思ったりしますけど(笑)、また同じ熱量でやり続けることを今は考えられない。もしかしたら2年、3年後に、もう一回代表でやりたい、と思うかもしれないですけど、選ばれないとあの場には立てない。どうするんですかね。またやりたいな、と思ったら、その時考えます」
先のことはわからない。だが、今何をすべきか。それだけは明確だ。
「身体にガタが来るか、チームからいらないと言われるまで、やれるところまでやり尽くします。でもまずは、ブルテオンで優勝すること。これは絶対叶えたいから、今シーズンも気合入れて頑張りますよ」
まずはSVリーグ元年を制し、初年度の王者としてトロフィーを高く掲げること。
夏のパリでこぼれ落ちた、あの黒い滴の正体をつかむまで、山内は歩みを止めない。いつか、心からの笑顔と嬉し涙でスタンドを見上げる、その日まで。
〈つづく→小野寺太志編〉