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「驚愕の上がり32秒5」武豊の“神騎乗”が生んだドウデュース“究極の末脚”…「偶然を必然にした」天才の手腕とは? 衝撃の天皇賞・秋のウラ側
posted2024/10/29 11:03
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph by
Keiji Ishikawa
腹を括った「神騎乗」が、究極の末脚を引き出した――。
第170回天皇賞・秋(10月27日、東京芝2000m、3歳以上GI)を、武豊が騎乗した2番人気のドウデュース(牡5歳、父ハーツクライ、栗東・友道康夫厩舎)が大外から驚異的な末脚を繰り出して優勝。1984年のグレード制導入以降7頭目となる、4年連続GI制覇を成し遂げた。
スローペースで後方2番手「これでダメなら…」
曇り空の下、15頭の出走馬が良馬場の芝コースに飛び出した。
武のドウデュースは他馬と横並びのスタートを切ったが、手綱を抑えて内と外の馬を先に行かせ、後方に下げた。
最初のコーナーを回りながらホウオウビスケッツがハナに立ち、向正面へ。
1番人気の牝馬三冠馬リバティアイランドは中団、ドウデュースは後方2番手につけている。
ほぼそのままの隊列で馬群は3コーナーに差しかかった。1000m通過タイムは59秒9。良馬場で、強豪が揃ったこのメンバーにとってはスローペースと言っていい。
こういう遅い流れになると、どの馬も最後に速い脚を使うことができるので、少しでも前につけた馬が有利になる。そうしたなか、ドウデュースは相変わらず先頭から10馬身ほど離れた後方2番手のまま。武はやや重心を後ろにかけて手綱を抑え、馬の行く気を宥めている。
「ペースはあまり速くなかったんですけど、前半はムダな動きをせず、ラストに賭けようと思っていました。中途半端なレースはしたくなかった。これでダメならしょうがないという気持ちで腹を括って乗りました」
そう話した武にとって、スローのなかの後方2番手は、「覚悟の位置取り」だった。周囲に他馬のいない、「単騎」の後方2番手だ。馬ごみのなかで折り合わせるつもりはなかったという。
「今日は(馬ごみに)入れる選択肢はなかった。2コーナーで外に馬がいる状況だったので、下げるほうがいいだろう、と」