NumberPREMIER ExBACK NUMBER
<27年目の告白>天皇賞を制したオフサイドトラップの裏で…柴田善臣が明かすサイレンンススズカのこと「スズカがレースを中止しようする姿が…」
posted2024/10/27 17:03
text by
藤井真俊(東京スポーツ)Masatoshi Fujii
photograph by
Kiichi Yamamoto
発売中のNumber1107号「神騎乗伝説」に掲載の[あの日のこと]1998年 天皇賞・秋 オフサイドトラップ&柴田善臣「27年目の告白」より、内容を一部抜粋してお届けします。
数々の名勝負が繰り広げられてきた天皇賞・秋だが、そのスリリングな展開でファンを沸かせた一戦といえば、2022年のレースを思い浮かべる人も多いのではないか。勝ったイクイノックスが主役なら、名脇役としてレースを盛り上げたのは2着のパンサラッサ。1000m通過57秒4という超ハイペースで大逃げを打つと、ゴール寸前まで粘りに粘ってみせた。
レース後にはパンサラッサもイクイノックスと同じくらいに話題を集め、讃えられた。その理由のひとつに前出のラップがあった。57秒4というのは、1998年の天皇賞・秋でサイレンススズカが刻んだラップと寸分違わぬ数字だったから。サイレンススズカは直後の3-4コーナー半ばで競走を中止したが、その“夢の続き”をパンサラッサに重ねたファンも少なくなかった。
コンビを組めると聞いた時はうれしかった
こうしてレースから四半世紀が過ぎた今でもたびたび話題にのぼる'98年の天皇賞・秋。しかし主語として語られるのはサイレンススズカばかりで、本来主役であったはずの勝ち馬・オフサイドトラップの名前が挙がることは少ない。8歳での天皇賞制覇は史上初。なおかつ屈腱炎と戦いながらのGI勝利は紛れもない偉業であるにもかかわらず、である。手綱を取った柴田善臣は、そのことをどう感じているのか。あの一戦を振り返ってもらった。
「オフサイドトラップに乗ったのは、あのレースが最初で最後。確かマサヨシ(主戦の蛯名正義)に別の乗り馬がいて、代打で頼まれたのかな。声をかけてもらった時は素直にうれしかった。なにせ天皇賞・秋に出られるんだから。それも重賞連勝中で勢いがある、チャンスのある馬でね。オフサイドの強さは、その前走・新潟記念で対戦して肌で感じていた。自分はブラボーグリーンという馬に乗っていて、1番人気のオフサイドを負かしてやろうと思って乗ってたの。
レースでも思い通り完璧に乗れたんだけど、結果はハナ差の2着。“これでも負けるのか”と落胆したけど、同時にオフサイドの強さを改めて感じた。だからコンビを組めると聞いた時はうれしかったし、脚元の悪い馬だったけど、厩務員さんからもすごくいい状態と聞いていたから楽しみだったよね」
深追いせず、自分の走りに徹しようと考えていた
とはいえレース当日のオッズではオフサイドトラップは6番人気。サイレンススズカやメジロブライト、シルクジャスティスらGIホースの前では、あくまで伏兵の1頭だった。なかでも単勝120円の圧倒的支持を集めていたのがサイレンススズカ。6連勝という実績はもとより、スタートから大逃げを打って後続を寄せつけない無敵のレースぶりが、競馬ファンを熱狂させていた。
もちろん柴田も相手はサイレンススズカ1頭だと思っていた。
「すごい馬だったからね。普通の馬なら止まるようなハイペースで逃げて、そのまま後続を離して勝っちゃうんだもん。ユタカ(武豊)もそういう乗り方をしていたし、相手の身になってみれば“イヤな馬”だよね。そこで自分が考えていたのは、最初から負かしてやろうとは思わない競馬。それまで、サイレンススズカを深追いして、着順を落としてしまった馬をたくさん見ていたから。だからまずは自分の走りに徹すること。オフサイドには溜めて切れるようなイメージもなかったから、スタートをうまく出てくれたら先行策。そのうえで自分のペースを乱さず運んで、ベストのタイムで走りきれれば……と。あとは何が起こるか分からないのが競馬だし、スズカも生き物だから調子の良し悪しがあるかもしれない。そんな気持ちだったね」
レースではいつも通り大逃げを打つサイレンススズカに、離れた2番手から運ぶサイレントハンター。オフサイドトラップはそこからさらに離れた3番手を追走した。