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『ブラン監督、頭おかしくなったのかな?』男子バレー前監督が最後に明かした…石川祐希が“グー”を出した新技の秘話「世界が真似する発明になるかも」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2024/10/19 11:20
パリ五輪で退任したフィリップ・ブラン前監督とキャプテンの石川祐希
導入が進まないのを見て、一時はオリンピックでこの新しい戦術を採用することを諦めさえもした。
「私はアイデアに自信を持っていましたが、無理強いすることはしませんでした。選手たちが納得していないのに戦術を強要することは私の本意ではありません。選手たちは大人ですし、強制は良い結果を生み出しません。革命的なアイデアである場合は、納得と共感、そして時間が必要です」
グーブロックを「最初に試みた選手」
そのままではグーブロックは封印されたままだったかもしれない。しかし、グーブロックを試みる選手が現れたのだ。
「深津です。まず、彼がチャレンジしてくれたのです」
セッターの深津旭弘、今年の7月に37歳を迎えた身長183センチの大ベテランだ。グーブロックに率先して挑戦したのは、ブロックが自分の弱点だと痛感していたからかもしれない。そして、この深津の姿勢が新戦術への向き合い方を変えていく。
「一度だけではなく、深津は継続的にチャレンジしてくれました。すると、それが効果的なものだということを、他の選手たちが理解し始めたのです。これは、使えるかもしれないと。深津が挑戦してくれなかったら、果たしてどうなっていたか……。彼のおかげで、ブロック戦術のオプションが増えたのです」
ブラン監督は、懐疑的だった選手たちの心理面での変化について理解していた。
「選手たちが後ろ向きだったのは、手をげんこつにしてしまうと、ワンタッチからのチャンスボールを作れなくなる。それを恐れたからでしょう。しかし、データを分析していくと、指をはじかれてポイントを失うことの方がはるかに多かったのです。選手たちもだんだんと納得して、日本のオリジナルの戦術へと発展していきました。パリ・オリンピックでは祐希が特に効果的に使っていましたよね」
「グーブロックは世界に広がる可能性があります」
ただし、本当の意味で戦略的ブロックに昇華していたかどうかは、難しいところだ。日本がブロックに2枚、あるいは時と場合によっては3枚そろった時に、ある選手はグーでも、他の選手はパーになっており、パーの指先を狙われたことがあったからだ。
新戦術だけに正解は定まっておらず、写真の西田のようにワンタッチを狙われやすいストレート側だけがグーが正解なのかもしれない。
この先、日本が新監督を迎え、グーブロックを採用するかどうかは定かではないが、継続的に使っていくとするなら、ミドルブロッカーと左右両翼との「ブロック連動」はひじょうに重要な意味を持ちそうだ。
そして今後、日本だけでなく、世界のブロック戦術でグーブロックがどんな意味を持つようになるのか注目していると、ブラン監督は話す。