濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ファンからの誹謗中傷にユニット再編…続いた悲劇「私の気持ちが理解できる?」正統派レスラーだった上谷沙弥が“闇堕ち”を決意するまで
posted2024/08/29 11:03
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
上谷沙弥はスターダムの観客を「お前ら」と呼んだ。自分のファンのことは「しもべ」と言う。コスチュームを全身黒に変えた今の彼女はヒール。誰もが予想しない“闇堕ち”だった。
もともとはメインストリームの選手だ。アイドル志望だっただけにビジュアルは新人時代から目立っていたし、身体能力も高い。空中殺法を得意とする“ハイフライヤー”として活躍してきた。“白いベルト”ワンダー・オブ・スターダムのチャンピオンとして最多防衛記録を作ってもいる。そんな選手がなぜヒールとなり、反則を繰り返すようになったのか。
悲劇のはじまりは“ある負傷”だった
振り返ってみると、上谷のキャリアは栄光ばかりではないことに気づく。特にこの1年だ。毎年夏恒例のシングルリーグ戦「5★STAR GP」、昨年は初戦で戦線離脱を余儀なくされた。照明用のヤグラに登り、そこからボディアタックを敢行。着地の際にヒジを脱臼してしまったのだ。初優勝に向け気合いが入りすぎた結果の事故だった。
復帰した上谷は、最大の必殺技であるフェニックス・スプラッシュ封印を決意する。コーナー最上段からダイブし、回転しながら全体重を相手に浴びせる技はかけるほうにもダメージがあった。
「これからはレスリングだったり、飛び技だけじゃない部分も強化していきたいです」
昨年後半のこと、そう語っていた上谷はスタイルチェンジを模索。舞華が持つ“赤いベルト”ワールド・オブ・スターダム王座に挑戦した今年2月の試合も名勝負になった。
そこからも上谷は変化を求められた。タッグパートナーであり所属ユニットQueen's Quest(QQ)のリーダーである林下詩美が3月いっぱいでスターダムを退団。新団体マリーゴールドで再出発を果たす。
上谷はコスチュームを林下のイメージカラーでもあった赤に変えると、4月のビッグマッチでハイスピード王座を獲得する。さらにWAVEのリーグ戦で他団体に初の本格参戦。優勝という結果を残した。
「WAVE参戦は刺激だらけでした。初めて当たる選手ばかりだったし、交流もできました。試合を重ねると、WAVEのファンの方々からも声援をもらえるようになって」