濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ファンからの誹謗中傷にユニット再編…続いた悲劇「私の気持ちが理解できる?」正統派レスラーだった上谷沙弥が“闇堕ち”を決意するまで
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/08/29 11:03
“闇堕ち”して「H.A.T.E.」に加入した上谷沙弥
“闇堕ち”の理由は語らない
その言葉をここで使うのか。ただならぬ覚悟というしかない。この試合から大江戸隊はユニット名を「H.A.T.E.」に変え、上谷も加入した。ゴールデン・フェニックスから“地獄の不死鳥”へ。黒いコスチュームで躍動する上谷は開催中の5★STAR GPでブロック1位の成績を残し、決勝トーナメント進出を決めている。
8月中旬、上谷にあらためてインタビュー。口調から変わっていた上谷だったが、“闇堕ち”の理由については語ろうとしなかった。簡単に説明できることではないし「説明したところで私の気持ちが理解できるの?」という思いもある。
ヒールとして闘う姿が似合っていない、無理をしてるんじゃないかという声に対しては、明確に反論した。
「それって、見てるヤツらが私のイメージを勝手に決めつけてるだけでしょ。本当の上谷沙弥がどんな人間か、なんで分かったつもりでいるんだろう」
上谷自身は、ヒールとして闘うことが楽しいという。
「既成概念に囚われず、自分の好きなようにプロレスができてるから」
反則、ユニット総がかりでの試合への介入。これまでさんざんやられてきたことだが、自分でやってみると発見もあった。
「反則をやるのだってユニットの力も必要になってくる。悪いことも含めてプロレスなんだって、今は思うね。仲間と一緒に闘ってるという感覚は、QQの頃より強い。今が一番、プロレスをやっていて楽しい」
“黒い上谷”は単なるキャラではない
一つ言えるのは、ヒールは自分で選んだ道だということ。そこにプライドもある。
「ボケっとしてる選手はもっと自分に何ができるか考えたほうがいいんじゃない? 私からすると、もがいてるようには見えない選手がけっこういる」
目標としてきた赤いベルトは、同じユニットのナツコが持っている。上谷は新たな目標を設定した。
「今はナツコが赤いベルトを巻いてるから、挑戦するのはタイミングを見計らえばいいかなって思ってる。 まずは5★STAR優勝して史上最狂の悪夢を魅せてやりたいね。 赤いベルトを巻いてスターダムを真っ黒に染めてやる」
批判の声もありながら“黒い上谷”のTシャツは売れまくった。単なる“キャラ”ではないからだろう。上谷がリング上で相手を倒し、不敵に笑う時、その背景にはいくつもの悲しい出来事がある。それをファンは知っている。
上谷が見せているのは、栄光と不遇が複雑に入り混じったキャリアに対する、いわば復讐だ。
「これが今の私のプロレス。それが正しいか正しくないかは結果を見ればいい」