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甲子園優勝投手に「ビビってんのか?」慶応の“美白王子”丸田湊斗にも厳しい言葉を…高校日本代表を率いた明徳義塾・馬淵史郎監督の素顔
posted2024/08/23 17:00
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Tadashi Shirasawa
発売中のNumber1102号掲載の[日本代表メンバーが語る]明徳義塾・馬淵史郎「時代も価値観も超えて」より内容を一部抜粋してお届けします。
やや芝居がかってはいたが、そのことが逆に冗談ではないのだろうなと思わせた。
「……怖かったです」
そうこぼしたのは早稲田大1年生の高橋煌稀だ。一昨年、仙台育英の二枚看板の一人として、夏の甲子園で胴上げ投手になった長身右腕でもある。インタビュー中、感情をほとんど表に出さなかったが、そんな高橋がうっすらと笑みを浮かべていた。
高橋が振り返ったのは昨年夏、台湾で開催されたU-18W杯でのことだ。
日本代表はスーパーラウンドの3戦目で優勝候補の地元・台湾(チャイニーズ・タイペイ)とぶつかった。台湾応援団のマイクでがなる独特の大声援が球場を覆い、日本人選手たちの神経を逆なでする。そんな中、先発した高橋は2者連続で四球を与えた上に、3盗塁をからめられるなどして、初回にいきなり3点を失った。
馬淵は「ビビってんのか?」と高橋に軽く詰め寄った
「調子がよくなくて、ストライクを投げたくても投げられなかったんです」
W杯は日本の高校野球とは異なり、監督が自らマウンドへ行くことが許されている。高橋の乱調を見かね、監督の馬淵史郎がベンチを飛び出した。馬淵は小柄だが、闘争心の権化のような男だ。高橋はマウンドで馬淵にこう言われたのだという。
「ストライク入れろ、みたいな」
この回想はかなりマイルドに加工されている。大会直後に横浜高校の緒方漣を取材した際、そのとき馬淵は「ビビってんのか?」と高橋に軽く詰め寄ったと話していた。高橋に確認すると、こう首肯した。
「そういう感じでしたね」
馬淵は、よくも悪くも直情型の監督である。緒方は、こう苦笑いしていたものだ。
「練習試合でバントを失敗したら『緒方、そんなんやってたら使えんぞ』って。会ってまだ3日目なのに、そんなにズバッと言われるんだ、って思いましたね」
直情型で”親分肌”の監督と距離を取りあぐねていた
2022年夏、自主性を前面に打ち出す仙台育英が優勝した。続く2023年夏は「エンジョイベースボール」を標榜する慶應が優勝。仙台育英を指揮する須江航も、慶應を統率する森林貴彦も、従来の強豪野球部の監督像とはかけ離れていた。丁寧な語り口や豊富なボキャブラリーは、どちらかというと会社の経営者を彷彿とさせた。