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“現役慶大生の金メダリスト”飯村一輝20歳とは何者か?「試合前日にインスタライブ」「髪型をキメてパリへ」フェンシング“かきあげ王子”の令和な素顔
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph byNaoya Sanuki/JMPA
posted2024/08/07 19:01
フェンシング男子フルーレ団体で日本のアンカーを務めた飯村一輝。金メダル獲得の瞬間、グラン・パレの大歓声を一身に浴びる
リザーブ永野に金言「雄大くんにしか越えられないよ」
飯村はすぐに対策を取った。頼ったのは『スラムダンク勝利学』の著者、スポーツドクターの辻秀一さんだった。
「大学4年生のキャプテンがメンタルトレーニングを教えてもらっていて、そのつながりで月1回ほどトレーニングを受けるようになりました。どういうことを考えていたのか、または考えてしまっていたのか。自分の中で未来を考えすぎてしまい、“今”に集中できてなかった。そういったことを話し合い、自分の考えを整理するきっかけとなりました」
迎えたパリ五輪。飯村は個人戦で3位決定戦に敗れ4位。その過程で地元の大応援を受ける強豪フランス選手に対し、ひるまず勝利するなど健闘した。地鳴りのように湧く圧倒的な歓声も「なんかザワザワしているなー」とどこ吹く風だった。
メダルにあと一歩届かなかった敗因は「疲れがカバーできなかった」と汗を拭いながら語った。座右の銘は「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」。苦しい敗戦にも、受け答えは堂々としていた。
団体戦では重要な場面で真価を発揮した。決勝では6番手に登場、7点を奪取し23-25から30-28へと逆転。チームをあるべきルートの上に戻す。ただ、この試合で本当の凄みを感じさせたのは、その後の行動だ。
7番手の松山が追いつかれた場面、8番手として準備していた永野雄大に近づいて声をかけた。25歳の永野は最後の4人目として代表に滑り込み、個人戦には出場しないリザーブメンバーとして登録。しかし、敷根に代わって急きょ終盤の重要な局面で起用されていた。時折立ち上がって、剣を振る永野。記者席からでも緊張の色がはっきりと読み取れた。永野によれば「頭が真っ白になっていた」という。飯村が伝えたメッセージは……。
「この緊張は雄大くんにしか越えられないよ」
飯村はアンカーとして、自分が勝敗を分ける場に立つプレッシャーがあったはずだ。にも関わらず、自身の前に登場する5歳年上の先輩を激励したのには理由があった。