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「先生が折れた前歯をポケットに…」天才少女・宮下遥が語る“衝撃15歳デビュー”のウラ話「170cmの小学生がバレーボールに出会うまで」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byL)Asami Enomoto、R)Jun Tsukida/AFLO SPORT
posted2024/07/26 11:03
NumberWebのインタビューに応じてくれた宮下遥。今年の9月で30歳になる
2009年11月28日、グリーンアリーナ神戸での久光製薬(現・久光)とのデビュー戦は、今や伝説とも言われる「事件」が起きている。
コート中央に落とそうと狙ったフェイントボールを拾おうと、バックライトから宮下がフライングレシーブで突っ込む。同時にバックレフトから別の選手も突っ込んできて、2人が交錯した。その際に宮下が下敷きになり、ボールには触れないまま顔面を床に強打。ラリーは続いていたのですぐに立ち上がり、プレーを続けたが、明らかに口の中がおかしい。宮下の前歯が折れていた。しかも、2本も。
「最後、レフトに上げたトスを神田(千絵)さんが決めてくれて、その1点は取り切ったんですけど、私はそれどころじゃなくて。『歯がないです』って言ったら、森(和代)さんが拾ってくれて、先生(河本監督)がポケットに入れてました。結構長いラリーだったんですけど、誰も蹴っ飛ばさずに顔面をぶつけた場所に(歯が)きれいに落ちていました(笑)」
今でこそ笑い話だが、当時は簡単な言葉では言い表せないほど動揺した。
「試合中もずーっと、考えていたのは歯のことばっかり。折れたところと残っている歯がパズルみたいにハマるかな? え、私このまま一生歯抜け? 口の中も切れまくっているけど治るのかな?って。周りからは、大丈夫だよって言われたけど私は全然大丈夫じゃなかった。セット間に痛み止めの薬をもらったんですけど、その時も『この薬で歯が治るんだ』と思いながら飲んでました(笑)」
当時の画像や動画を検索すると、欠けた前歯がハッキリとわかる笑顔の宮下が出てくる。試合中もずっと歯のことを考えていたのに、なぜ笑えたのか。
「(対戦相手の)久光の選手が笑っていて、その顔を見たら私も思わず笑っちゃいました」
デビュー戦の伝説を残したように、そこから華々しい選手生活が本格的に始まっていく。しかし、最初はむしろ「楽しい」よりも「苦しい」時間の連続だった。
(つづく)
◆インタビュー第2回では、15歳で初選出された日本代表での日々、そして「尖っていた」と認める若き日を振り返っている。