「遥、セッターするよ」

　河本監督のもと、中学に入学して間もなくセッターとしての本格的な練習が始まった。2学年上の先輩セッターとのツーセッター起用ではあったが、試合に出場する機会も得た。実はオーバーパスが一番苦手で、「ここに上げてみて」と求められるレベルには程遠い。それでも嫌になることなく続けられたのには意外な理由があった。

「中1の頃はどんなにひどいトスを上げても、全然怒られなかった。私、怒られるのが本当に嫌なので、その時に勘違いしたんです。『セッターって、怒られないんだ』って。こんなに素晴らしいポジションはないな、って思うところからのスタートで。現実を知ったのは3カ月を過ぎてからでした」

当時15歳の宮下遥　©️Jun Tsukida/AFLO SPORT

「来年、Vリーグに挑戦してみたら？」

　夏の大会を最後に3年生がチームを去ったことで、宮下はセッターとして一本立ちを求められた。春までの時間が幻のように毎日毎日、トスの質やトスワークをこれでもかと怒られた。

　怒られるのが嫌と自認する宮下が、それでもセッターを続けられた要因は何か。

「できることがどんどん増えていくことの楽しさのほうが勝っていたんです。バックライトでレシーブをするのも新鮮だったし、バックトスを上げたら速いタイミングで（助走に）入ってくれていた先輩アタッカーとドンピシャのタイミングで合ったのも、すごく嬉しかった。もともと負けず嫌いなので、もっとやりたい、挑戦したいという気持ちのほうが強かったのかもしれないです」

　その負けん気を見込んだのが河本監督だった。中学2年になった時、宮下の想像を上回る提案を受けた。

「来年、Vリーグに挑戦してみたらいいんじゃないか？」

　自宅がある三重を離れ、大阪での寮生活が始まった時、母と描いたのはまず中学3年間をしっかり頑張ること。そこから、姉妹校である大阪国際滝井高校に進学してもいいし、地元の高校を選んでもいい。中学を卒業する時に進路は考えればいいと話し合っていた。当然そこに「中学生でVリーグデビューを飾る」ことなど入っていない。だが、宮下は迷わず挑戦を決めた。

中学生の宮下遥（右）を抜擢した岡山シーガルズ・河本昭義監督（2009年12月）　©️Jun Tsukida/AFLO SPORT

「先に夏実さんが道をつくってくれていたので（2007年に15歳4カ月でデビューした堀口夏実）、私も挑戦しようと思えました。その時は高校生になったらシーガルズと高校、両方で試合に出たいと思っていたけれど、先生からは『早い段階でトップでの経験を積んだほうがいい』と言われて、じゃあちゃんと受け止めて挑戦しようと。（当時は）真っすぐで、純粋でしたね（笑）」

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