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中谷潤人の“残酷なボディ”一撃で挑戦者が悶絶「呼吸ができなかった」…戦慄の157秒KOはなぜ起きた? 井上尚弥戦実現へ「もっと大きくなる」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byHiroaki Yamaguchi
posted2024/07/21 17:00
わずか157秒で挑戦者を退け、雄叫びをあげるWBC世界バンタム級王者の中谷潤人。1階級上の“モンスター”井上尚弥とのメガマッチも現実味を帯びてきた
中谷は練習で積み重ねたことを忠実に実行した。それでも試合が始まってすぐには、「長くなりそうだな」と思った。挑戦者の体が計量時に比べてかなり大きくなっていると感じたからだ。これが2度目の世界挑戦となるアストロラビオは19勝(14KO)4敗という戦績が示すように強打とパワーに自信を持つ。「中谷のパンチはそれほど強いと思っていなかった」。試合後のセリフからも、がっちりガードを固めてプレスをかけ続け、中盤以降にパワーでねじ伏せる、という攻略プランだったことが窺える。
しかし、中谷はチャレンジャーの思惑のはるか上をいった。作戦通り、早い段階で強烈な左をガードの上からたたき込み、「相手がひるんだ。あそこで意識付けができたと思う」。相手により顔面への左を意識させ、「そこの軌道があいていたので(左パンチを)投げ込めた」。ボディ一撃のフィニッシュは、計算通りだった。
両国国技館に充満していた“これまでにない期待感”
この日、満員の両国国技館で感じたのは中谷に対する期待の高さだ。Amazon Prime Videoの中継が始まり、出演者たちのオープニング・トークが場内に流れる中、中谷が会場入りする映像が映されると「おーっ」という歓声と大きな拍手が沸き起こった。それは今までに感じたことのない反応だった。
2020年11月、コロナ禍の後楽園ホールで世界チャンピオンになった中谷は、その実力から大エース、井上尚弥(大橋)のあとを次ぐ“ネクスト・モンスター”と称されながら、認知度はなかなか高まらなかった。
それでも着実に実績を積み重ね、昨年5月にラスベガスでアンドリュー・モロニー(オーストラリア)を倒した試合は権威ある米メディア「ザ・リング」の年間KO賞に選ばれた。さらに今年2月の3階級制覇達成後は「ザ・リング」のパウンド・フォー・パウンド(PFP)ランキングでベスト10入りをはたした。
1階級上の4団体統一王者、井上への対戦希望も口にするようになった。これが好意的に受け入れられたのも、ファンの期待が高まっている証拠だ。こうして中谷は豪華カードが並ぶAmazon Prime Videoのイベントで、初めてメインイベンターに抜擢されたのである。