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「40人中39位」で滑り込み内定…女子ハードル田中佑美(25歳)に見る「モデル挑戦だけじゃない」“五輪戦略”の重要性「標準記録はマストではない」
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph byAsami Enomoto
posted2024/07/15 06:00
日本選手権では0.03秒差で2位に敗れた田中佑美。標準記録突破はならなかったが、ワールドランキングでの五輪参加が決定した
5月のセイコーゴールデングランプリ陸上を終えて、筆者が確認した時には日本人最上位の33位に付けていた。ところが、その後標準記録突破者が増え、日本選手権を迎えた時点で37位とボーダーランキング近くまで下がっていた。
「ポイントを稼いだ時点で(五輪代表の座を)手に入れたつもりでいたんです。それが自分のポジションが大きく変わっているのに気づいて、その中でベストを尽くすのはすごく大変でした」
日本選手権の準決勝のレース後に田中はこんなことを口にしていたが、パリ五輪出場を確実なものにするために戦略的にスケジュールを組んできただけに、焦りが生じたのも無理はない。
急なランキング変動…五輪は最後まで予断を許さず
その準決勝では、田中と別の組で福部真子(日本建設工業)が参加標準記録を突破する12秒75をマークした。日本選手権の前まで出場圏外だった福部の快走は、すなわち、田中のワールドランキングがまた1つ下がることを意味した。また、寺田明日香(ジャパンクリエイト)も日本選手権の結果次第では圏内に浮上してくる可能性もあり、予断を許さない状況だった。
田中も準決勝では自己ベストとなる12秒85で走ったが、喜ぶことはなかった。むしろ、窮地に立たされた心持ちだっただろう。
決勝では参加標準記録突破を目指して攻めのレースをしたが、12秒89で2着と届かず、肩を落とした。雲行きが怪しくなり、心のうちでは諦めかけたのかもしれない。それゆえの冒頭の言葉だった。
吉報がもたらされたのは、その2日後のことだ。
田中はワールドランキングで40枠のうち39位となり、パリ五輪の出場資格を無事に得ることができた。
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qualified for the Olympics (フランスの国旗)
40人中の39位。ギリ!!!!
ポイントの1点1点に、今までの踏ん張りとチャレンジと心からの応援が詰め込まれてる。
最高な日の後も最悪な日の後も、日常は変わらず続くことを経験として知っているから。
これからも粛々と、周りの全てに感謝を込めて。
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正式に内定が決まると、田中はインスタグラムに喜びの声をつづった。
最終的には、Bカテゴリーながら日本選手権で2位に入ったことで1246点と高いパフォーマンススコアを獲得し、なんとか踏みとどまった。
ワールドランキングが確定するまでは生きた心地がしなかったかもしれないが、戦略的なチャレンジがあったからこそ、田中のパリへの道は拓けた。