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「受け身じゃ世界は無理なんや」“モデルジャンパー”から国内3年間無敗の女王に…走幅跳・秦澄美鈴(28歳)が目指す「世界へのリベンジ」
text by
荘司結有Yu Shoji
photograph byAsami Enomoto
posted2024/07/01 19:21
日本選手権の女子走幅跳で優勝、パリ五輪を決めた秦澄美鈴。国内では3年半近く無敗と日本最強ジャンパーの立場を揺るぎないものとしている
秦は、2021年2月の試合から国内では3年半近くにわたり「無敗」を誇るトップジャンパーだが、走幅跳に専念したのは社会人1年目。高校から大学までは走高跳を専門としていた。
大学を卒業した2019年から、男子走幅跳元日本記録保持者の森長正樹氏、女子三段跳日本記録保持者の森本麻里子らの恩師である坂井裕司氏に師事。助走や踏み切りの技術を一から学び直し、その年の日本選手権で初優勝を果たす。
東京五輪シーズンの2021年4月には、日本歴代4位タイ(当時)の6m65cm(+1.1)をマークし、その年の日本選手権を含め、出場全試合を制した。ただ、それでも五輪に届かなかった経験が、世界を目指す上での視座を変えるきっかけにもなっている。
東京大会から五輪初の「ワールドランキング制」――各大会のグレードやタイム、順位などをポイント換算して算出するランキング上位に入れば、出場資格を得られる仕組みが導入された。参加標準記録を突破できなくても、複数の大会でコンスタントに記録や結果を残せば、五輪への扉が開かれるというものだ。
シーズンイン前の自己記録6m45cmに対し、参加標準記録は6m82cm。秦はこのランキングによる代表入りを見据えていたが、ターゲットナンバー(出場枠)の32位の選手と約30ポイント差の37位で出場権を得ることはできなかったのだ。
「受け身じゃ世界は無理」感じた東京五輪
当時の心境を、以前の取材で秦はこう語っている。
「その時は五輪に出場できるポイントの目安も分からなくて、自分の中で楽観的に捉えていた面もありました。結局、代表入りを逃して『受け身じゃ世界は無理なんや』って思ったんです。出られたかもしれない舞台を取りこぼしてしまったことに、後悔と責任を感じました」
もちろん、どちらも選手の戦略次第なのだが、ランキング入りを目指して試合を重ねるのと、標準突破を狙って挑んでいくのでは、目標レベルや意識に差が生まれることは否めないだろう。シーズンが進むにつれて各国の選手たちのポイントも増えていき、安全圏だと思っていたのに、最終的に弾き出されることも想定される。