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「もう十分だよ」渡邊雄太から“NBA卒業”を告げられた瞬間、涙腺が決壊した…現地記者が絞り出した感謝の言葉「6年もサバイブしたのは勲章」
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph byNaoki Nishimura/AFLO SPORT
posted2024/07/13 17:01
千葉ジェッツとの契約合意を発表した渡邊雄太(29歳)。パリ五輪での活躍も期待される
もう20年以上もアメリカでスポーツライターをしてきたが、ロッカールームで堪えきれずに涙を流したのは今回が初めて。そろそろ片付けが始まった部屋の中で、目の前の記者が感情的になったというのに、渡邊は特に驚いてはいなかった。
周囲に悟られないように必死に声を抑える筆者の肩を、「大丈夫ですよ」とでも言うようにぽんぽんと叩いた。このやりとりをおそらくもう何度か繰り返してきたのだろう。解放されたかのようにすっきりした表情だった29歳は、「この話をすると例外なくみんな同じ反応なんです」と言って静かに笑った。
ここではプロの記者にあるまじき姿も見せてしまったが、渡邊の“NBA引退”が悲しくてそうなったわけではない。むしろその逆で、根底にあったのは安堵。やっと絞り出すように渡邊に伝えたのは、「もう十分だよ」という言葉だった。
感動的な活躍の裏にあった“苦悩”
大学1年時に初めて出会ってから、約10年。謙虚で献身的な努力家で、バスケットボールに対する愛情に満ち、自身のプレーを伝える言葉も持った渡邊の取材機会はいつでも喜びだった。カレッジキャリアを通じて少しずつ成長し、ついに夢でもあったNBAに辿り着いたその軌跡を間近で見ることができたのは幸福だった。
2018年にNBAに到達以降も、特に一時的にでも主力クラスの役割を得たトロント・ラプターズ、ネッツに在籍していた頃は多くの感動をもらった。その一方で、NBA入り以降、これまで以上に厳しい時間を経験する渡邊を目の当たりにすることにもなった。
「NBAではほとんどが辛いことばかりでした」
“悔しいことも多かっただろうから”と言葉をかけた際、渡邊が即答したそんな言葉は正直な思いの吐露だったはずだ。致命的なミスを犯したり、コート上で勝利に貢献するプレーができなかったがゆえにそう感じたわけではあるまい。バスケットボール選手に限らず、スポーツ選手にとって何よりも辛いのはそもそも試合に出られないことだ。