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「いやいやいや…」藤井聡太“まさかの一手”に控室が騒然、解説者は絶句…伊藤匠が迫り、八冠に起きた異変 藤井聡太「初失冠の1日」

posted2024/06/22 17:02

 
「いやいやいや…」藤井聡太“まさかの一手”に控室が騒然、解説者は絶句…伊藤匠が迫り、八冠に起きた異変 藤井聡太「初失冠の1日」<Number Web> photograph by Keiji Ishikawa

伊藤匠との叡王戦第5局、途中まで評価値では勝利へと到達する「藤井曲線」を描いていた藤井聡太だが、後手の伊藤が食い下がり終盤へと突入すると…

text by

茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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Keiji Ishikawa

 同学年にして将棋界の絶対王者。その藤井聡太八冠を破っての初タイトルとなれば、何かしらの感情が去来するのではないか。
 いや、そんな素振りはなかった。万感極まることなく、笑顔を浮かべることなく、これまでと同じ姿に映った。
 終局から約7分後、新叡王となった伊藤匠は終局直後も――これまでの藤井との対決と同じように――滔々と歴史的な一局を語っていた。(Number Webノンフィクション。棋士の段位などは当時のもので、初出以降省略。全2回の第1回/伊藤匠「初戴冠」編はこちら

決戦の間「九重」

 2024年6月20日、第9期叡王戦第5局。藤井と伊藤の21歳同士が相まみえた五番勝負の最終舞台は、山梨県甲府市にある老舗の常磐ホテルが会場となった。玄関を入ると雄大な日本庭園を望み、その左奥方向の離れに“番勝負の間”とも言われる「九重」がかすかに見える。

 2階のスペースに上がると「名人の小径」というスペースがある。常磐ホテルはタイトル戦が終盤までもつれた際の会場になることで有名な場所でもある。それゆえこの場所には、過去の対局の写真、さらには名棋士たちの揮毫した色紙が飾られている。

 その品々を見ていくと、羽生善治王座がフルセットの末に中村太地六段を振り切って防衛、渡辺明棋王が糸谷哲郎竜王を下して竜王奪還、永瀬拓矢王座が振り飛車の雄・久保利明九段相手に初の王座防衛……といった具合にだ。 

八冠獲得以来の熱気

 そこには七段だった頃の藤井が「飛翔」と記した色紙、さらには豊島将之二冠としのぎを削った2021年の叡王戦第2局(考えてみればタイトル戦フルセットはこの時以来だ)の写真もあった。

「ああ、この対局場で藤井先生はもちろん、伊藤先生もまた、歴史を紡ぐんだね」

 大盤解説会を見るために訪れたファン3人組が、顔をほころばせながら将棋史をたどる様子が印象深かった。

【次ページ】 大盤解説の松尾八段が「難しい…」 

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