- #1
- #2
将棋PRESSBACK NUMBER
「いやいやいや…」藤井聡太“まさかの一手”に控室が騒然、解説者は絶句…伊藤匠が迫り、八冠に起きた異変 藤井聡太「初失冠の1日」
text by
茂野聡士Satoshi Shigeno
photograph byKeiji Ishikawa
posted2024/06/22 17:02
伊藤匠との叡王戦第5局、途中まで評価値では勝利へと到達する「藤井曲線」を描いていた藤井聡太だが、後手の伊藤が食い下がり終盤へと突入すると…
大盤解説会のスタートは14時だった。その時刻に合わせて、取材記者控室に入室する人々、さらにはカメラクルーも増えた。控室には25人ほどが着席できる長机は2つあったが、おやつで『ペコちゃんのほっぺ』などが紹介された15時頃にはすぐ埋まり、電源コンセントが足りなくなるほど。藤井の地元である愛知県名古屋市で行われた叡王戦第3局がペン記者を中心に20人ほどだったことを思い出すと、世間的な注目度が昨期の王座戦第4局――藤井が八冠達成を成し遂げた一局――以来の熱気を感じた。
大盤解説の松尾八段が「難しい…」
対局画面に集中すると、評価値はややわずかに藤井の方に傾いた状況だった。
ここで気になったのは、隣接する大盤解説会場である。
大盤解説会の会場には、2つの大型スクリーンがある。対局する2人の姿、天井カメラからとらえた「評価値が表示されていない」現局面である。ここでは解説役の棋士も、対局する棋士と同じ感覚で考えを巡らせている。
例えば渡辺棋王と藤井五冠が新潟市内で相まみえた2023年の棋王戦第3局でのこと。両者1分将棋の中で評価値が〈99%-1%〉と〈1%-99%〉を激しく行き来する最終盤を戦った末、渡辺に軍配が上がった。対局した2人の鬼気迫る表情はもちろんだが――大盤解説会を担当した高見泰地七段が、相当の読みを必要としたため終局後に息切れするほどに消耗していたのが印象に残っている。
叡王戦第5局、解説を担当した松尾歩八段も、手に頭を当てつつ、何度かつぶやきながら大盤を操作していた。
「難しい……」
ギャラリーの中には、評価値が表示されるABEMAでの中継や将棋連盟ライブ中継に視線を落とす人もいた。しかし大盤解説会に映し出される映像は、スマホに映る画面よりも数秒から数十秒だけ早い未来がある。藤井が髪をかき上げ、伊藤が頬杖をついて必死の思考ぶりを見せる様子に、さまざまな席から言いようのない嘆息が漏れた。
記者控室にうめき声が…
「まだまだ先が長いですね」