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“井上尚弥の敵”ルイス・ネリ、なぜ日本で嫌われるのか? 山中慎介が明かす「泣き続けたネリ敗戦後」「知らされたまさかのドーピング違反」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byAFLO
posted2024/04/29 17:06
2017年8月14日、WBC世界バンタム級タイトルマッチ山中慎介vsネリ戦。前日計量の様子
「12回防衛してきて、勝つのが当たり前になっていましたから。あのとき後援会のみなさんをはじめ、すごく応援してくれて、期待してくれて。その思いに応えられなかったと感じると、もう申し訳なさすぎて……。そういう気持ちでずっと泣いていたんだとは思います」
“まさかのドーピング違反”
陥落から翌日の朝、世界チャンピオンの先輩で一緒に走り込みのキャンプを張るなど良き理解者でもあった長谷川穂積に自ら連絡を入れている。気持ちの整理がつかずに多くの電話に出られなかった一方で、ふと先輩の電話番号を探していた。3階級制覇を果たして王者のまま引退した長谷川もまた、現役時代に手痛い敗北を喫して王座から陥落した苦い経験を持つ。敗者となった孤独、絶望を知る先輩に知らず知らずのうちに助けを求めていたのかもしれない。
「まずはゆっくり休めばええよ」
長谷川に電話を入れたのは初めてのこと。短い会話ではあったものの、労いの一言にどこか救われた気がした。
応援に駆けつけた家族とともに京都から都内の自宅に戻り、ずっと閉じこもる。気分転換にとみんなで熱海旅行に出掛けたものの、花火大会で混みあっていたというオチをつけるのも関西人の彼らしい。
「静かなところに行こうって、夏休みの熱海を選択している時点で間違っていますよね(笑)。外は人であふれていたので子供とホテルのなかでずっと遊んでいました」
ちょっと気が晴れたかなと思った矢先、ネリのドーピング違反の報道を知らされた。7月に実施した検査で筋肉増強剤に似た成分のある禁止薬物ジルパテロールに陽性反応を示したというのだ。気持ちが追いついていかなかった。割り切れない思いがあった。何をする気も起こらなくなっていた。
<《山中慎介・取材後記》編から続く>