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“井上尚弥の敵”ルイス・ネリ、なぜ日本で嫌われるのか? 山中慎介が明かす「泣き続けたネリ敗戦後」「知らされたまさかのドーピング違反」
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byAFLO
posted2024/04/29 17:06
2017年8月14日、WBC世界バンタム級タイトルマッチ山中慎介vsネリ戦。前日計量の様子
以前ほどの軽快なフットワークを使えないため、ネリが連打を狙ってくれば顔の動きでパンチを受け流すスリッピングアウェーやクリンチを使いながら回避する。2ラウンド終了間際にはネリの強打を食らいながらも、逆に左ストレートを見舞った。照準が合いかけていた。
トレーナーがリングに飛び込んできた
だが迎えた4ラウンドに悪夢が待っていた。回転力を上げて放つネリのラフなパンチを浴びてバランスを崩し、防戦に回るとなおも挑戦者が前に出て攻勢を強めてくる。
ネリの左を顔面に受け、ロープ際へ。猛攻を受けて腰を落としつつも、逆に左を打ち込む活路を見出そうとしていた。自分が倒れる距離なら、相手も倒れる距離。そのときだった。トレーナーがタオルを持ってリングに飛び込んできた。
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山中は少し時間を掛けながら当時の心情を呼び起こす。
長年支えてくれたトレーナーの判断を尊重したうえで、ゆっくりと振り返った。
「もっと自分が動けば良かったんでしょうけど、タイミングが合っていたので(ロープ際に)居すぎてしまった。詰まる時間が長くなるから相手の手もどんどん出てくる。確かに見た目は危なっかしいですよ。でもネリの回転力は速い一方で、単調なんです。自分の対応がちょっと遅れてしまって、どうしよっかなと思っていたのは覚えていて、そのなかでも隙を狙って左を当てにいくボクシングを最後まで続けようとしました」
「そういう気持ちでずっと泣いていた」
5年9カ月守った虎の子のベルトを手放した。肩車されて喜色満面のネリとは対照的に色を失った表情でコーナーから動けない山中がいた。気がつけば涙が止まらなくなっていた。リングを降りるときも、控え室に戻ってからも。敗北という現実を受け入れられないかのように。
宿舎のホテルに戻っても、心配して駆けつけた妻が見守るなかで延々と泣き続けた。