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<龍角散presents エールの力2024②>日本サッカーの至宝・小野伸二に色あせない輝きを授けたサポーターの声の力
posted2024/05/10 11:00
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph by
J.LEAGUE/ AFLO
偉大なプレイヤーは時代を超えて生き続ける。
2024年4月7日、宿敵アヤックスとの大一番。超満員となったフェイエノールトの本拠地デカイプで、ひとりの日本人が喝采を浴びた。
昨シーズンを最後に、プロ生活に終止符を打った小野伸二さんだ。
20年前に在籍した外国人選手の引退セレモニーが行なわれるのは、異例の出来事。それだけで小野さんが彼の地で称賛され、愛され続けていることがわかる。
懐かしいかつてのホームに降り立ったときの思いを、小野さんが振り返る。
「ピッチに立った瞬間から、鳥肌が立っていたんです。俺、なんて幸せなところでプレーしていたんだろうって。そこからチャントの大合唱が始まり、ゴール裏に大きなコレオまで出てきて驚きました。そんな演出、まったく知らされていないですから。20年も前の選手なのに、まだ自分のことを憶えていてくれて、ものすごく感激したんです」
大声で歌うサポーターの中には、小野さんの現役時代を知らない若者たちも少なくない。そんな熱狂の光景は、ふたつの事実を物語る。
ひとつはレジェンドの記憶を世代を超えて語り継ぐ、オランダのサッカー文化の懐の深さ。そしてもうひとつ、小野さんのプレーが20年経っても色あせないほど強烈な印象を残したということだ。
日本からやって来た若者は勝利に貢献するだけでなく、奇想天外なボールタッチや「シルク」と評される繊細で正確無比なパスによって、美しいゲームを愛するオランダ人を虜にした。ファンだけではない。各国代表に名を連ねるチームメイトたちをも魅了したのだ。
高校時代から小野は歓声をモチベーションにしてきた
プロサッカー選手は数多くいるが、その中で「チームを勝たせる選手」はひと握りしかいない。だが、それ以上に稀有な存在がいる。勝敗や敵味方を超越し、サッカーそのものを光り輝かせるようなプレイヤーだ。小野さんは、そんなプレイヤーのひとりだった。
小野さんはなぜ、特別なプレイヤーになることができたのか。そこには天賦の才に加えて、そうなりたいという強い意志があった。
「ぼくは高校時代から試合に勝ちたいという思いだけでなく、観に来た人を『なんだ、いまのプレーは!?』と驚かせるようなプレーをしたいと思っていました。ぼくは結構お客さんの反応も意識していて、自分のプレーで大歓声が沸いたりすると、それによってさらに調子が出てくるんです。勝ち負けも大事ですけど、それ以上に観ている人が『また観たい』、『すごく楽しかった』と思ってくれたら、仮に負けたとしてもまた観に来てもらえるじゃないですか。プロだったら、こういう部分が大事だと思うんです」
つまり、アマチュア時代から小野さんはプロフェッショナルだった。