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<龍角散presents エールの力2024②>日本サッカーの至宝・小野伸二に色あせない輝きを授けたサポーターの声の力
text by
熊崎敬Takashi Kumazaki
photograph byJ.LEAGUE/ AFLO
posted2024/05/10 11:00
異様な雰囲気の中で、小野さんは声援がもたらす力について改めて考えたという。
「自分たちはいま、とてつもないプレッシャーを受けている。ということは、これだけの大声援に後押しされているイランの選手たちは、ものすごく大きなアドバンテージを感じているんだろうな。つまり自分がレッズにいたとき、対戦相手はレッズのサポーターの大声援に大きな圧を感じていたはずなんだ」
翌2006年、小野さんはフェイエノールトからレッズに復帰。ふたたびレッズサポーターの大声援の中でプレーすることになった。しかも、今度は巨大な埼玉スタジアム。声援のボリュームは、駒場の比ではない。それが小野さんにはうれしかった。
「レッズでは引き分けでも罵声が浴びせられる。すごくシビアに感じられるかもしれないですが、それくらい勝ちに貪欲なサポーターがいることがぼくには心強かったですね。このチームは引き分けも許されない、そういう意識にさせられますから」
そして、埼スタを本拠地にしたレッズには、勝利を求められ、優勝争いをすることを当然だと考える頼もしい選手たちが集まっていた。
小野さんが復帰した06年、07年で、レッズはJ1初制覇に続いて天皇杯を獲得。さらには、アジア制覇を成し遂げる。
それは、サポーターたちの声がもたらした栄光でもあった。
かつてのレッズは負けばかりで、J2へと降格する。そこでサポーターがあきらめていたら、チームは成長することをやめてしまっていただろう。彼らが声をからして歌い、叫び続けたからこそ、レッズは大声援に応えられるたくましいチームへと成長したのだ。
「サポーターの声があるほど力を引き出されますから」
レッズから始まり、Jリーグでは清水エスパルス、FC琉球、北海道コンサドーレ札幌、さらにはヨーロッパ、オセアニアでも大歓声を浴びた26年間のプロ生活を終え、スタンドからゲームを観るようになった小野さんが、いま強く願っていることがある。
「結果はもちろん大切ですが、やっぱり『うわっ!』と驚くようなプレーを見せてくれる選手に出会いたいですね。ぼくが思わず、席から立ち上がってしまうような」
勝敗を超越して、サッカーそのものを光り輝かせてくれる……そう、現役時代の小野さんのようなプレイヤーが出てくるために必要なものはなにか。
声援を力に、魔法のようなプレーを見せてきた小野さんは即答した。
「サポーターのみなさんにお願いしたいのは、スタジアムをできるだけいっぱいにしてほしいということ。多くのサポーターの声があるほど選手は力を引き出されますから」
シンジ2世、いや、シンジを超える逸材の出現を、だれよりも小野さんが待ち望んでいる。
小野 伸二Shinji Ono
1979年9月27日、静岡県生まれ。1998年に清水商高から浦和レッズに加入。同年フランスW杯出場(日本代表最年少記録)。2001年フェイエノールトに移籍し、主力としてUEFAカップ優勝に導く。2002年日韓W杯で全4試合に出場。2006年に浦和に復帰し、同年のJリーグ優勝・天皇杯優勝、翌2007年ACL制覇に貢献。2008年に独ボーフムに移籍。その後、清水エスパルス、豪州ウェスタン・シドニー・ワンダラーズ、北海道コンサドーレ札幌、FC琉球でプレー。2021年に札幌復帰。2023年シーズンを最後に現役引退。