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世界1位のまま25歳で突如引退、全盛期の世界女王はなぜテニス界を去った?「記者会見に赤ちゃん同伴」“天才少女”アシュリー・バーティの今
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2024/04/12 17:03
生涯グランドスラムにリーチをかけながら、世界1位のまま2022年にテニス界を去ったアシュリー・バーティ。天才少女の競技人生を振り返る
一人の記者が最初に冗談めかして「赤ちゃんはどこで見つけたの?」と聞くと、「3カ月前に生まれた姪っ子なの。生きるってこういうことなんだなって思う」と微かな笑みで言った。
バーティの意図は?
さらに会見が進んだところでも赤ちゃんの名前などに話が及ぶと、「人生ってすばらしいなって。この子は私がコートから帰って来たらすぐに私の顔を見て笑ってくれたの。思わず抱き締めたわ。大丈夫。そう、大丈夫よって」と言って微笑んだ。
究極に無垢な存在を胸に抱きながら会見に臨んだ意図は何だったのだろうか。こんな辛い日にも確かに感じる幸せ、大切な命の前には試合に勝ったとか負けたとか他愛もないこと———。そんな気持ちを、姪っ子の助けを借りて話したかったのだろうか。アシュリー・バーティとはこんなふうに、時に突拍子もなく、不思議な雰囲気を持った選手……女性だった。
ママさんブームと現役復帰の可能性
バーティの電撃引退から2年、今の女子テニスは空前の<ママさんブーム>だ。マイアミでは元世界ランク3位のエリナ・スビトリーナと元女王の大坂なおみという新米ママ対決が注目を集めた。元女王のビクトリア・アザレンカのママさん歴は長く、キャロライン・ウォズニアッキやアンジェリック・ケルバーも母親として再びトップを目指し始めた。
まだ27歳のバーティに復帰の可能性をうかがうのは当然だ。オーストラリアのPGA(プロゴルフ協会)研修生でプロゴルファーのキャディーも務める夫によれば、ゴルフでもプロで通用するレベルだという。これからの人生はアスリートではなく女性として生きたいと語るバーティだが、「何事にも絶対ってものはない」とあらゆる可能性をほのめかす。また忘れた頃に世間を驚かせるのかもしれない。