濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
逮捕者続出のブレイキングダウンが問われる「格闘技か、喧嘩か?」 一般的な生活が分からない“不良たちの実像”「大きい声を出すか手が出るか…」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/04/09 11:00
ブレイキングダウン「喧嘩自慢トーナメント」の記者会見で起きた乱闘の様子
一般的な生活が分からない“不良たちの実像”
溝口COOは、ウェブサイト『モデルプレス』でのインタビューでこう語ってもいる。今回の逮捕者が出る前、昨年4月のことだ。
〈もちろん、過ちを犯してしまった人が、簡単に許される社会は正しくないと思います。ですが、生まれながらの悪党なんて存在しないという前提に立てば、彼らが道を踏み外してしまった原因の一つは、今の社会にもあると僕は思うのです。だからこそ、過ちや失敗を犯した人が、二度と立ち上がれない社会の方が僕は正しくないと思っていて。
生前、一度しか会ったことのない僕の父も、両親に捨てられ、親戚も身寄りもただの一人もなく、孤児院で生まれ育ち、生活保護の末に最後は自ら死を選びました。決して真っ当な人ではなかったと聞きますが、これは父だけの問題とは思えなくて〉
不良たちの実像を、瓜田はさらに詳細に説明していく。
「ブレイキングダウンに出てるヤンチャ坊主、落ちこぼれは(一般的な社会生活が)できる人には当たり前のことが分からなかったりする。(ダイスケは)不良の金の稼ぎ方、不良としての生き方しか知らなかった。運営の人たちとやり取りして、敬語使ってっていう、社会的なことが(ブレイキングダウンが)初めてかもしれないっていうくらい分からない。
口が回って達者なことがすぐ言えればトラブルにもならない。でもバカだから口も回らないし、どうすればいいかも計算できないから、結局は大きい声を出すか手が出るかになってしまう」
ブレイキングダウン出場者は路上で絡まれやすい
溝口はブレイキングダウン出場者が、その知名度ゆえに路上などで絡まれやすいという事情もあると話す。人気選手と一緒にいる時、いきなり頭を叩かれたり理不尽な者たちに囲まれたりする姿を見てきたそうだ。それでも名のある選手は手を出さないし出せない。
「おそらく今回の(逮捕された)子たちの中にも、肩を持つわけにはいかないけど、同じような目に遭っている選手もいる。甘いと言われるかもしれないけど、そこはブレイキングダウンが好きな人たちには想像してほしい。
暴力を肯定はできないけど、逆に言うと彼らは言葉も出てこない。自分の感情を表現できないから手が出ちゃう。動物だと思うよ本当に。バカだと思うし。でも自分も見てきてるから、そういうヤツを。世の中は不条理で理不尽で、環境によって(人間は)白にも黒にもなる。一歩間違えたら自分もそっちに行ってたと思うから。こんなこと言ったら批判されるけど、彼らが100%悪いって心の底からは思えてないっていうのがあって。彼らの弱さの背景を、ちょっとだけはブレイキングダウンを通じて知ってほしい。こういうことで逮捕されて人生棒に振るんだっていうことが伝われば、それも世の中のために意味があるとも思うし。難しいです」
動物のようにしか生きられない、そんな環境しか与えられなかった人間も世の中には確かにいるのだ。果たして彼らを排除すればそれでいいのか。「排除ベンチ」で公園からホームレスを追い出しても、ホームレスを生んでしまう世の中は変わらない。そうした問題意識にまで踏み込むことができれば、ブレイキングダウンの存在意義もより広く認められるはずだ。