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「行くな、やめんのやめろ」「たむ、ありがとうな」中野たむとジュリア“最後の一騎打ち”の結末は…スターダムに残る者と去る者のドラマ
posted2024/03/30 17:01
text by
原悦生Essei Hara
photograph by
Essei Hara
「私の結婚式にも葬式にも、アンタなんか呼ばない」
そう叫んだのは中野たむだ。中野とジュリアのシングルマッチは3月20日に名古屋国際会議場で行われた。これがスターダムのリングで行われる、2人の最後の一騎打ちだった。
中野たむがジュリアに「行くな、やめんのやめろ」
いきなり始まった張り手の応酬。頭突きの鈍い音。中野の額の真ん中には大きなコブができた。それでも中野とジュリアは頭突きを打ち続けた。ジュリアの額の左も腫れていた。
15分という限られた時間に凝縮された、スターダムに残る女とスターダムを出ていく女の意地。そして執念。
中野はまた「呪い」という言葉を使ったが、食らいついているという感じだった。互いの得意技を駆使しても、それは押さえ込むためではなかった。フォールを奪いに行くのではなく、とことんやってやるという姿勢が双方に見えた。立ち上がらなければ引き起こしてでも攻め続ける。「最後だから、こうするしかない」とでもいうように。
濃密な攻防は時間切れになった。終わりだ。2人とも仰向けに倒れている。
しばらくして中野がそのままマイクを持ってしゃべり始めた。
「本当、せいせいするよ。大嫌いだったアンタの顔、見ないですむと思うと、せいせいする。アンタがいなくなったらこんな風に顔パンパンになって、宇宙一ボコボコの顔を人前にさらすことも、会見で血まみれにされることも……。(そんなことが)全部なくなるかと思うと本当にせいせいする。おい、ジュリア、アンタと私はさ、一生に一度、出逢えるか出逢えないかの存在だった。そうでしょう。行くな、やめんのやめろ」
ジュリアが返す。
「もう会わなくてすむと思ったらな、こっちだってせいせいしてんだよ。私以上のライバル見つけたら、許さねえって言ったよな。オマエと、何度も何度も戦って、今日一つ答えが出たよ。スターダムやめるの、やめるよ。そんな訳ねえだろう、馬鹿野郎! オマエ以上のライバル? そんなの、この世にはテメエよりいい女なんてたくさん、山ほどいるんだよ」
ジュリアは続けた。
「でもよお、オマエがいつか私より先にリングをもし降りる日が来るんだったら、必ず私を呼べ。生きている限り、必ず私を呼ぶんだ。私がどこにいようが、オマエがどこにいようが、いつでもどこでもオマエの最後の相手は必ず私だ。他の女選んだら許さねえからな。このブス」