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辻陽太30歳は“オカダとオスプレイが去った新日本プロレス”の主役になれるのか?『NJC』優勝の夜にファンが見た夢「俺が新時代の象徴だ」
posted2024/03/26 17:03
text by
原壮史Masashi Hara
photograph by
Masashi Hara
「雨は止んで、帝国の王は去り……。でも、大丈夫だ。俺がここにいるから」
新たな景色を待ち望んでいた客席が歓声を上げた。見たかったものを目にすることができた喜びと、“この先”への期待が会場を支配していた。少し異様な感じがするほど――リング上の人物が、扇動者や教祖のように見えてしまうほど――だった。
昨年5月の凱旋帰国直後から、辻陽太はインパクトのある試合と言動で注目と支持を集めてきたが、その支持は明確な結果を出したことでますます濃くなっていた。今の彼には、見る者を否応なく惹きつけてしまうだけの何かがある。
オカダ、そしてオスプレイの穴を埋めるのは…
春を前にオカダ・カズチカとウィル・オスプレイがアメリカ・AEWへと旅立ち、多くの新日本プロレスファンは喪失感と危機感に襲われた。
団体に、そして心にポッカリ空いた穴を誰が埋めてくれるのか?
そんな空気感の中で、春のトーナメント『NEW JAPAN CUP』(以下、NJC)は幕を開けた。ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポンの辻は、その満ち溢れる自信が生む不敵な笑みを絶やすことがないまま、一気に頂点へと駆け上がった。
初戦のジェフ・コブとの激闘から始まったトーナメントは、エル・ファンタズモ、成田蓮、EVILと厄介な相手が続いたが、勢いに乗る30歳は彼らを上回り、長岡での決勝に辿り着いた。
当然、決勝も簡単な試合ではなかった。
立ちはだかったのはCHAOSの後藤洋央紀。近年はYOSHI-HASHIとのタッグ"毘沙門"でワールドタッグリーグを3連覇し、IWGPタッグ王座を複数回獲得するなどタッグ戦線のトップに君臨している混沌の荒武者だ。2008年には『G1 CLIMAX』を制しており、NJCも2009、2010、2012年と3度制したことがある。
しかし、春夏合わせて4度頂点に立ったことがある彼は、最高峰のIWGPヘビー級王座のベルトをその腰に巻いたことがない。
そんな後藤を突き動かしていたのは、オカダ・カズチカが抜けてしまった所属ユニット・CHAOSに対する愛情と、今年2月に亡くなった父への思いだった。
アオーレ長岡は、辻への期待感と同じくらい、「後藤がトーナメントを制し、その後、44歳でついに最高王座を手にする姿を見たい」という願いで満ちていた。