濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「私なんて“女もどき”なんじゃないか」タイで性別適合手術を受けたトランスジェンダー女子レスラー…エチカ・ミヤビがリングで流した涙の意味
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/03/16 17:04
2024年1月に「壮行試合」にて初勝利をあげたエチカ・ミヤビ。その後タイで性別適合手術を行った
タイでの手術、「性器をズタズタにされるような痛み」も…
試合を終えたエチカはタイで手術を受けた。7日間の入院からホテルに移り通院。トータルで21日の滞在だった。
「まず体が辛かったです。患部がもの凄く痛むし、まともに歩くのも難しい。トイレやシャワーもしんどかった」
その痛みを、エチカはこう表現する。
「内側から土手っ腹をパンチされるような痛みと、性器をズタズタにされるような痛み、さらに膀胱がチクチクするような痛みがありました」
人に頼るのが得意なタイプではないから、辛さを1人で抱え込んでしまったとも。体の痛みに加え未来への不安もある。
「なんで生まれたんだろう」
「結局、私なんて“女もどき”なんじゃないか」
泣いてばかりだったし、手術後すぐの時期は「とにかく痛くて、男とか女とかそれどころじゃなかった」と言う。
「それでも落ち着いてきて自分で歩けるようになって、尿道のカテーテルが抜けてからはおしっこするたびに前とは違う感覚に感動しました。“女になったんだ”って……」
実感した“女性としての自分”
帰国後、患部の腫れが引いていき、そこでも女性としての自分を実感した。その頃、学生時代に戻った夢を見たそうだ。女性の姿で学校にいる自分。それは実際には過ごせなかった青春だ。夢でも嬉しい。夢の中では女性として野球をやって、服は「ガッツリ学ラン」だったそうだ。
「過去の自分と今の自分では大きく境界があると思っていて、だからなのか今の現実と過去と妄想が混ざったような夢、悪夢を見ることも多かったですね。安静にしていなきゃいけないので、そのぶん考え込んで鬱気味にもなりましたし」
今は体を労ることが第一。医者からは半年間はトレーニングをしないようにと言われている。やはり復帰まで1年はかかりそうだ。
「練習再開は夏頃ですかね。その前に少しずつ練習に顔を出して、PPPTOKYOのみんなとコミュニケーションを取っていこうかなと。
今はダイレーションというMtFの手術後のメンテナンスも必要で、1日2回、1時間ずつかかる状態です。その頻度が下がれば体も動かせると思うんですが、それでも一生ごとなので大変ではあります」
筋力、体力は当然ながら落ちた。女性ホルモンも打ち続けている。
「復帰したら、手術前とは違うファイトスタイルも身につけたいです。柔軟性を活かしたり、新しい格闘技を練習してみるとか。筋力、パワーばかりに頼らない闘い方が必要になるでしょうね」