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「私なんて“女もどき”なんじゃないか」タイで性別適合手術を受けたトランスジェンダー女子レスラー…エチカ・ミヤビがリングで流した涙の意味
posted2024/03/16 17:04
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
1月9日、PPPTOKYO所属のプロレスラーであるエチカ・ミヤビの「壮行試合」が行われた。
プロレスラーの壮行試合といえば、たとえば長期海外遠征などの前に組まれるものだ。だが今回は異例だった。この試合を最後に、エチカは長期欠場へ。その理由は性別適合手術を受けるためだった。
2001年3月生まれのエチカがプロレスデビューを果たしたのは、一昨年9月のこと。トランスジェンダーの女子レスラーという異色の存在だった。身長178センチ、中高は野球部で130キロ台の速球を投げていた。柔道では二段を取得。
野球と柔道に打ち込んだのは「男っぽいことをやろう」と考えたからだった。本当は、小さい頃から仮面ライダーよりディズニープリンセスに憧れていた。
「なんで自分は女の子の服を着れないんだろうって思ってました」
そんな自分が変なのではないか、自分を隠さなくてはと、小学生の頃に思うようになった。
「それからずっと、男性として生きようと思ってました。男として就職して、結婚して、子供を作る人生を送ろうと。男として生まれた以上、そのほうが楽だと思って」
批判にもさらされたプロレスデビュー
転機は大学時代。コロナ禍で授業のほとんどがリモートになり、家で自分と向き合う時間が増えた。考えに考えて、自分が生きたい人生を生きることにした。髪を伸ばし、スカートをはいた。
筋トレ好きの女性が働くバー「筋肉女子・マッスルガールズ」のシフトに入ると、そこで筋トレYouTuberでセクシー女優、プロレスでも活躍するちゃんよたに出会った。
試合を見に行き、PPPTOKYOの練習にも参加。トランスジェンダーの女子プロレスラーとしてデビューすることが発表されると、批判にもさらされた。トランス女性の女子スポーツ出場の問題点は、よく指摘されるところだ。
ただプロレスは勝ち負けのみを競うものではない。男女の対戦も珍しくないし、サイズ、パワー以上にキャリアや試合運びがものをいうジャンルでもある。エチカがデビュー戦で当たったのは女子トップ選手の世羅りさ。エチカは完敗を喫した。
ましてエチカは、デビューの時点で睾丸を摘出、女性ホルモンを投与していた。女性の身体に近づきながら、強くなるために筋トレもする。筋肥大には男性ホルモンが深く関わる。普通に考えれば矛盾した行為をしていたのだ。だがそれが、エチカが選んだ道だった。女子プロレスラーとして強くなりたかった。