濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「私なんて“女もどき”なんじゃないか」タイで性別適合手術を受けたトランスジェンダー女子レスラー…エチカ・ミヤビがリングで流した涙の意味
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2024/03/16 17:04
2024年1月に「壮行試合」にて初勝利をあげたエチカ・ミヤビ。その後タイで性別適合手術を行った
「早く手術すれば、体力があるうちにプロレスに戻れる」
トランスジェンダーを代表して、という意識はない。世の中に何かを訴えたいわけでもない。ただ自分の人生を知って救われる人もいるかもしれない、と思う。
「自分の性とか生き方について悩んでいる人、昔の自分みたいな人はたくさんいる。そういう人がプロレスを通じて私を知って、その人なりの正解を見つけてくれたら」
試合を重ね、PPPTOKYOの大会には欠かせない存在になっていたエチカ。背が高いから攻撃に迫力があり、男子と闘っても女子と闘っても違和感がない稀有な選手に成長した。
ここからさらに飛躍が見込まれる。そんな時期だったが、エチカには人生の選択としての手術が待っていた。手術は少しでも早いタイミングで、と考えていたそうだ。
「手術をすると、欠場期間は1年くらいかかる。単なる社会復帰ではなくてレスラーとしての復帰なので。キャリア、生活、いろんな意味での“復帰”になりますね。
だからこそ、手術はできるだけ早くと考えました。若いうちに、早い段階で女性になりたいというのもありますし、早く手術すれば、それだけ若い段階で体力があるうちにプロレスに戻れるので」
壮行試合での初勝利、あふれた涙
壮行試合は男女ミックスドマッチ。エチカは宮本裕向、真琴と組み今成夢人&夏すみれ&リアラと対戦した。今成のパワーに苦しみ、夏の試合運びに翻弄され苦しい展開が続いたエチカ。
だが、プロレスには攻め込まれるほど観客の視線が注がれるという面もある。強いか弱いかだけでなく、持っている実力の中でどれだけ頑張れるかをファンは見ているのだ。
宮本との合体攻撃も見せたエチカは、大コールの中で夏をフォール。壮行試合にして、これがキャリア初勝利となった。
「手術前の最後の試合、人生の大きな分岐点です。いろいろ悩みとか辛いことがあったけど、覚悟を決めて臨んだ試合で、初めて勝てました! プロレスに出会えてよかった。人生変わった。だから絶対このリングに帰ってくるから。人として、レスラーとして、もっともっと素敵になって、人に夢や希望を与えられるような女になって帰ってきます」
リング上から観客にそう伝えると、自然に涙があふれる。バックステージでインタビューすると「この世界に来てよかったです。もっともっと、ここで愛されるようになりたい」と語った。すでにプロレスは人生の一部になっている。