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「恐怖があるんです」田中希実が明かした1500mの“怖さ”…ケニアの2週間合宿で掴んだ手応え「負けず嫌いな気持ちもめちゃめちゃあります」
text by
及川彩子Ayako Oikawa
photograph byAyako Oikawa
posted2024/02/28 18:15
テレビで対談した黒柳徹子さんのパーカーを着て撮影に応じた田中希実@ニューヨークにて
再び3分台で走る準備はできている。
健智コーチは1500mも5000mも逆算して練習をマネジメントする。
例えば1500mの練習であれば400mを66秒(もしくは68秒)、つなぎの100mを24秒(もしくは22秒)で500mが1分30秒に収まる設定を目指したインターバルを行う。
つなぎのタイムも含めて設定が速いため、本数をこなすことが難しく、田中選手とぶつかることもあるが「思い通りにいかないレースでどこまで速いペースを保てるか。どうこらえられるかを練習で行うことも大切です」と説明する。
彼らは3分55秒という数字を視野に入れている。
恐怖と高揚感の狭間で
「レースでいろいろな場所に行ったり、経験ができるのは楽しいんです。小さい時から望んでいたことですし。かつ強くなりたいっていう負けず嫌いな気持ちもめちゃくちゃあります。どちらの自分もすごく渇望していることなので、どちらが本当の自分なのか分からなくなることがあります」
自分自身とのつきあい方はまだまだ手探りだ。
「どっちの自分も本当の自分だと思うので、ありのままとして受け入れる方がいいと思っているけれど、負けたくない、負けたくないのに負けそうと考えたりする時期がつらいんです。競技している以上は絶対直面するもので、長い目で見たら勝つことが全てじゃないし、負けても人としての価値が損なわれるわけではないことは頭では分かっています。でも勝ちたいんです」
競技が嫌いなのではなく、負けるのが嫌い。
根っからの負けず嫌いゆえの葛藤だ。
「1500mはレースの細かいことを覚えていないことが多いんです。どうなるか分からないことに立ち向かっていく怖さがどの種目よりも大きい分、それを制したり、ちゃんと結果がついてきたっていう嬉しさや高揚感、逆にダメだった時の悔しさが強烈なんです。だからこそ中毒性があってどうしても辞められない」
心の振り子が大きく揺れることもあるが、高いレベルでレース経験を積むうちに勝ちたいという気持ちが恐怖心に勝っていくだろう。
すべてのピースが噛み合う瞬間は、意外と近いうちに訪れるような気がしてならない。
◇ ◇ ◇
後編では、田中希実選手がアメリカで自身がもつ日本記録に挑戦したボストン室内1500m&ニューヨーク室内2マイルレースの模様をお伝えします。
<後編へ続く>