スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
箱根駅伝・青学大の“非常識ルール”「僕は腕時計をつけない」の不思議…原晋監督が即答した「設定タイムなんて意味ないよ」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byJIJI PRESS
posted2024/01/24 17:50
今年の箱根駅伝、2年ぶり7度目の優勝を果たした青学大・原晋監督
「タイムではなく、あくまで意識していたのは順位です。僕で先頭に立つイメージを持っていて、そうすればタイムはついてくると思ってました。駒澤の佐藤圭汰君という強い選手を追いかける展開になったことで、あのタイムが出たと思います」
太田は、日本人学生としては初めて3区で60分を切る59分47秒をマーク。10000mでは現役日本人学生最高記録を持つ佐藤を上回った。太田が設定タイムを課せられていたとしたら、衝撃的な走りは生まれなかっただろう。
そして箱根には4年連続出場となった4区の佐藤一世(4年)にいたっては、こんな言葉が出た。
ADVERTISEMENT
「タイム設定していなくて、レースプランは後半耐える。悔いが残らないように走る。それだけでした」
まことに、シンプル。
このように青学の選手たちは、タイムに縛られることなく、レース展開に合わせた走りを心掛けている。
駒澤大とは「対照的」
対照的だったのは、2位の駒澤大学だった。1月7日に日本テレビで放送された「もうひとつの箱根駅伝」では、鈴木芽吹主将の証言として、ほぼ設定タイム通りに走れてはいたが、後続の青学大との差をつけられなかった――と話していた。鈴木の話を聞くと、設定タイムと勝負の関係性の難しさが浮かび上がってくる。
青山学院の取材を始めてから、かれこれ10年以上が経ったが、駅伝において彼らは時計ではなく、あくまで勝負を走っていることが分かる。
練習では、時間の管理は当然のことながら行う。しかし、駅伝の本番、特に箱根駅伝の本番になると青山学院の選手たちは「タイムの呪縛」とは無縁で、のびのびと勝負を楽しんでいる。今回、総合タイムで大会新記録をマークしたが、これはあくまで結果の産物である。なにも、大会記録を狙っていたわけではないし、記録を出したとしても負けていたら意味はない。
日常生活でスマートウォッチを進んで装着し、「管理されることを好む」人間にとって、青山学院の選手たちはなんともワイルドに見える。
「走ることは表現手段だからね」というのは原監督の名言だが、表現するために時計やタイムは必要ないのだ。
私なぞは、走りでは自己表現できないから、せめて走ることに意味を持たせようと時計を装着して走っている。
だからこそ、青山学院の選手がまぶしく見えるのかもしれない。