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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「箱根駅伝は悔しいことばかりでした」櫛部静二監督の城西大が大躍進の3位…指揮官がチームに「もっと楽しく」を強調した“納得のワケ”
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byL)Yuki Suenaga、R)Nanae Suzuki
posted2024/01/10 06:03
大躍進で大学史上最高順位の3位に入った城西大の櫛部静二監督(左)。6区を走った久保出雄太(3年)は同好会出身の異色の経歴
「とてもじゃないけど、箱根駅伝を走れるレベルではないのが正直なところでした。はじめは寮にも入れませんでした。でも、走る姿を遠目から見てきて、次第にひょっとしたら、この子は伸びるんじゃないかと」
久保出の練習量は鬼気迫るものがあった。毎朝、下宿先から6kmを走ってチームに合流し、朝練習をこなして、また同じ道を帰っていく。特に冬の朝は暗い。雨が降っていれば、外に出るのが億劫になる。それでも、心を奮い立たせた。
朝だけで本練習に加えて12kmを走る日々は、高校まで走ってきた仲間からの出遅れを取り戻す時間でもあった。5000m14分30秒、1万m29分6秒79とタイムを伸ばし、6区を任されるまでに成長したのも芯の強さがあるからだろう。
久保出は区間13位に終わり「下り始めは、少し下れたのですが、最後の方は足が止まってしまって、難しい区間だとあらためて感じました。まだ練習が足りない」と振り返った。それでも、櫛部は「選手層が薄い中で、ああいう選手が台頭すると、より競争が高まって強くなっていく」と評価した。力がない選手も、そっと見守る。久保出の抜擢は、櫛部の指導者としてのスタンスが表れている。
キャッチコピー「もっと楽しく」を強調したワケは…?
戦力が充実すれば、上位進出も現実味を帯び、周りの注目が集まる。櫛部は選手に生じてしまいがちな気負いも取り除いた。
「もっと速く、もっと強く、もっと楽しく」
今年のチームのキャッチコピーである。とりわけ「もっと楽しく」を強調したという。
山口・宇部鴻城高で3000m障害の高校日本記録を樹立し、伝統校の早稲田大でも名ランナーとして鳴らした櫛部の競技歴を考えれば、そのフレーズを発すること自体が意外にも映る。だが、そこには現役時代の挫折を糧とする思いが込められていた。
「私自身もずっと競技をやってきて、箱根駅伝はいい思い出もありますが、どちらかというと悔しいことばかりでした。たたでさえ、トレーニングはキツい。走るだけの単純な作業の中、選手のモチベーションを維持するために、どうしたらいいんだろうと。どうすれば強くなれるかを考えるよう仕向けるには一番は楽しくやることだと」