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22戦21勝、勝率9割5分4厘…1988年の記録を35年ぶりに更新したホンダがパワーユニットに施した知られざる努力
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byMasahiro Owari
posted2023/12/15 11:00
2023年のレッドブルの快進撃を支え、35年ぶりの最高勝率記録更新に貢献したホンダの現場スタッフたち
その理由は単にPUの信頼性が上がっただけではない。ホンダはほとんどの場合レースを終えたPUを栃木のHRC Sakuraに空輸し、次のレースに向けメンテナンスしながら戦っていた。PUの信頼性を高める努力を、シーズン中も間断なく続けていたのだ。
「現在のF1は年間で使用できるPUの基数が制限されており、使用したPUはFIA(国際自動車連盟)によって封印されます。したがって私たちが勝手に中身をチェックすることはできません。でも逆に言えば、封印されていない箇所に関しては変えることができるんです」(折原)
信頼性だけのことを考えれば、PUを屈強に作れば壊れる確率は低くなる。しかし、それでは重量増などパフォーマンス面でデメリットが生じる。つまり、ホンダは封印される箇所とそうでない箇所の信頼性を意図的に変え、メンテナンスしながらパフォーマンスを確保していたのである。
前人未到の勝率10割
迎えた最終戦アブダビGP。ポールポジションからスタートしたフェルスタッペンが駆るマシンのPUは、最後まで力を発揮してトップでフィニッシュ。レッドブルのスタッフとともに、表彰台の下へ向かった吉野誠(HRCチーフメカニック)は、それまで味わったことがない感動を覚えたという。
「先輩たちが過去に味わってきた苦しさや喜びがどんな感じだったのかは、これまでは想像することすらできませんでした。でも、今回このような経験をさせていただき、少しは共有できたのかなと思います」
88年の偉大な記録「9割3分7厘」という勝率は再びホンダによって破られたが、まだ10割には達していない。
湊谷は言う。
「レッドブルではトラブルは起きなかったけれど、アルファタウリには起きた。あれがレッドブルに起きていても不思議はなかった。だから、まだまだ完璧ではないんです。ライバルたちとの差も確実に詰まってきている。これからしっかりとシーズンをレビューして、来シーズンはより盤石の態勢で臨めるよう、レッドブルとともに準備したい」
22戦21勝、勝率9割5分4厘。その記録に再び挑むのも、またホンダなのかもしれない。