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さらばフランツ・トスト…角田裕毅が最終戦アブダビGPでF1での育ての親に披露した成長の証と感謝のしるし
posted2023/12/01 11:02
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Masahiro Owari
最終戦アブダビGPの開幕を翌日に控えた木曜日の夜、メディアセンターで原稿を書いていたら、アルファタウリの広報から1本のメールが届いた。
「あなたが撮影したユウキとフランツのツーショット写真を、ユウキがヘルメットに使いたいと言っています。明日の朝までに製作しなければならないので、許可していただけるかどうかの返事だけ、早急にいただけますか? よろしくお願いします」
もちろん、私は写真の使用を快諾した。
その写真は今年の第13戦ベルギーGPで撮影したものだった。レース直後、アルファタウリのガレージ裏にあるチームエリアで待っていたフランツ・トスト代表が、10位入賞を果たし、第4戦アゼルバイジャンGP以来、9戦ぶりにポイントを持ち帰って来た角田裕毅を、抱きしめて祝福したときのものだ。
トスト代表が角田を抱きしめた後、「カメラに向かって、もう一度、お願いします」と頼んだら、帽子が外れそうになるくらい角田を引き寄せ、満面の笑みで応じてくれた。この写真は、8月23日公開の当連載「F1ピットストップ」のメイン写真にも使用したように、私にとっても思い出に残る一枚だ。
厳しくも暖かいトストからのサポート
トスト代表は根っからのレース屋で、妥協を許さず、人一倍厳しい姿勢でレースに臨むことで有名だ。今シーズン開幕直後にアルファタウリのマシンに戦闘力が不足していることが露呈すると、「ウチのエンジニアの言うことは、もう信用しない」と切り捨て、すぐさまチームの改革を行った。そのトスト代表がこれほどの笑顔で、しかもメディアの要請に応じたのである。トスト代表が心の底から喜んでいる瞬間に立ち会えたことが、うれしかった。
トスト代表がいかに喜んでいたのかは、力強く抱きしめられた角田がだれよりも強く感じていたに違いない。角田はF1にデビューした21年から、トスト代表の愛情の下で成長して来たドライバーだからだ。
そのトスト代表は今年4月にチーム代表として最後のシーズンとなることを発表。その日以来、角田はある思いを胸に抱いて戦い続けた。