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[大逆転ドキュメント]バスケットボール男子代表「ベネズエラ戦、7分18秒の真実」
posted2023/12/08 09:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
AFLO
8月31日。悲願の五輪切符を掴むまで、あと2勝――。必勝を誓って臨んだ決戦は、終盤を迎えてなお劣勢。だが、逆襲の予感は静かに、アリーナを満たしていた。日本代表があの一戦で問われたもの。その核心に迫る。
沖縄アリーナは熱を失っていなかった。試合時間が残り8分を切った時点で、日本代表のビハインドは15点にまで広がっていた。相手は格上のベネズエラ。バスケットボールのセオリーに照らせば、勝利の可能性は限りなく低い状況だ。それでもアシスタントコーチの佐々宜央は自分も含めて、ベンチにも場内にもまったく諦めのムードがないことを感じていた。
《1次ラウンドからそうでしたが、第4クオーターになると、明らかに相手がバテていたんです。だから走り切れば絶対に勝負できるとベンチでも話していました》
予感の根拠としては自分たちのバスケットボールに対する手ごたえがあったが、もうひとつ、このチームがずっと自分たちに問い続けてきた魔法のような言葉――そのためであるのかもしれなかった。
信じていますか?
6月、東京都内のナショナルトレーニングセンターで始まった強化合宿初日、ヘッドコーチのトム・ホーバスは全員をコート中央に集めると、一人一人に問うた。
「あなたはこのチームで勝てると、オリンピックにいけると信じていますか?」
アメリカ・コロラド生まれの指導者は相手の眼球を覗き込んだ。問われた者はその目を見て答えた。「信じています」