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[同志たちの誌上感想戦]菅井竜也「希望という名の振り飛車」
posted2023/11/23 09:02
text by
小島渉Wataru Kojima
photograph by
Japan Shogi Association
居飛車の横綱に振り飛車へ情念を注ぐ男が挑んだ、少数派の明日を左右する「対抗形」頂上決戦。佐藤和俊、西田拓也。菅井と同じ道をゆく2人は、激闘に確かな光を見出していた。
ひとつの戦法の未来を背負った男が藤井聡太に挑んだ。今年春に開幕した叡王戦五番勝負。藤井は15回目のタイトル戦にして初めて振り飛車党と対戦した。挑戦者の菅井竜也八段はA級棋士で唯一の振り飛車党で、B級1組まで広げてもただ一人、牙城を守っている。振り飛車はアマチュアに人気があるものの、トップ戦線で活躍する振り飛車党は少ない。もともと少数派なのに加えて、飛車を振るだけでもAIで評価が落ちるため敬遠されている。藤井は居飛車党で、振り飛車を公式戦で1局も指したことがない。逆風のなか、正確無比の王者に振り飛車は通じるのかが注目された。叡王戦までの対戦成績は藤井5勝、菅井3勝、2千日手。全局が菅井の振り飛車である。
開幕前日の会見で、菅井は「藤井さんは最強の棋士」と前置きしてから決意を語った。
「現状で自分が藤井さんに負けると、自分以外の振り飛車党では絶対に勝てませんから、そういう意味では最高の振り飛車対最高の居飛車の戦いだと僕は思っています」
最高の対抗形シリーズは、結果だけ見れば3勝1敗2千日手で藤井が防衛した。しかし、その戦いぶりは現代における振り飛車の可能性を十分に示すものだった。
では、振り飛車党の棋士はその奮闘をどう見たのか。20世紀末から振り飛車の進化とともに戦ってきた佐藤和俊七段、菅井と同世代でAI研究に定評のある西田拓也五段に話を聞いた。