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[A級順位戦深夜の激闘]佐藤天彦×菅井竜也「人間だからこそ」
posted2022/01/22 07:03
text by
大川慎太郎Shintaro Okawa
photograph by
Atsushi Kimura
自由を求める美学の男と、頑ななまでに己を貫き通す男。昨夏、棋界の最上位に位置する2人が残した棋譜にはAI全盛の時代にも変わることのない、棋士同士の戦いのみでしか生まれないものが確かにあった。
晩夏の大阪は強い雨が降っていた。
佐藤天彦は9時に遠征先のホテルで目を覚まし、身支度を整えてからタクシーで関西将棋会館に向かった。全身黒色のコーディネートで、フリルのついたシャツを着用。胸ポケットには白のハンカチーフを差した。
菅井竜也は8時半に起きて9時にホテルを出た。コンビニエンスストアで飲料などを調達し、9時15分に徒歩で会館入りした。他の棋士よりかなり早いが、30分前には対局室で気息を整える。ブルーのスラックスに白の長袖のワイシャツという装い。2人ともノーネクタイで暑さをしのいでいた。
歴代永世名人の掛け軸を背にした上座の佐藤が駒箱を開け、飴色の駒を盤上に散らした。2021年9月3日午前10時、関西将棋会館「御上段の間」。第80期A級順位戦3回戦の長い1日が始まろうとしていた。
順位戦は名人戦につながる重要な棋戦だ。
A級には頂点を極めた10人が集っており、9回戦で行われる。ここまで両者とも1勝1敗で迎えた一局だった。
「この勝敗で挑戦か残留か、リーグで当面目指すものが変わってきます。またA級の成績は普段の精神状態にも影響を与えます。降級の危機があると、思考の伸びやかさが失われてくる」と佐藤は言う。