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藤井聡太は八冠になるまで何を食べてきたのか タイトル戦全85局から見えた「コーヒーはアイスのみ」「うなぎを食べない」傾向
posted2023/11/11 06:00
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph by
Keiji Ishikawa
「将棋めし」の話題の中心にあった21歳はこれまでの大一番で何を口にしてきたのか。初タイトル挑戦の一手目から振り返ると、興味深い傾向が見えてきた。(全3回の第1回/#2、#3へ) ※肩書、値段はすべて当時
はじまりはカツカレーだった
藤井聡太がタイトル戦の舞台で初めて頼んだのは、東京・千駄ヶ谷の将棋会館近くにある「ほそ島や」のカツカレーだった。時は2020年6月8日。新型コロナへの恐怖が列島全体を覆っていたさなか。おやつは感染症対策の一環でクッキーとマドレーヌの2品が両対局者の控室に置かれた。意思を持って頼めたのは近隣のなじみのお店のメニューのみ。対戦相手の渡辺明三冠が北参道「ふじもと」のうな重(竹)ご飯少なめ、赤だし付き、3600円を注文する一方、藤井が頼んだ験担ぎの一品は980円。挑戦者はまだ17歳だった。
今年10月に八冠となるまで藤井聡太がタイトル戦の番勝負で食事類を注文したのは、午前のおやつ117回、昼食123回、午後のおやつ123回、夕食9回の計372回。
うなぎは一度も頼んでいない
実は、その中で藤井が「うな重」や「うな丼」を頼んだことは一度もない。うなぎは、昼も夜もうな重をオーダーしていた加藤一二三九段など歴代の名棋士が好んで食した人気の一品。藤井にとって初のタイトル戦対局相手で、うな重をオーダーした渡辺は当時、朝日新聞の取材に「確かにある程度のものを頼んだ方が相手は手広いという意味はあります」(2020年6月18日『朝日新聞デジタル』)と答え、17歳の挑戦者のオーダーの自由度を広げようとする配慮を明かしていた。
一方で藤井は、タイトル挑戦の前に加藤との対談で「うな重はまだ早いよね?」と問い掛けられると、「まだ頼んだことはないですけど、いつか頼んでみたい」と答えていた(2019年5月20日『HOMINIS』)。
たしかに高価で一般人の感覚からすれば頼むのに気が引けるメニューだが、全てのタイトルを得た今でも「まだ自分には早い」と思っているとしたら……21歳という年齢を感じさせる。そして「うな重」とタイトル戦で“初手合い”した際には、ちょっとした驚きが生まれるかもしれない。
コーヒーはアイスのみ、ホットは一度もない
王座戦を除くタイトル戦で棋士が一番最初にオーダーするのは「午前のおやつ」だ。これまでの注文を見ていくと、カフェインが多く含まれるコーヒー類をよく頼む傾向が読み取れる。