入団1年目にウエスタン・リーグの盗塁王に輝いた三宅が投手のモーションをどう盗むか教えると、岡田はすぐに実行に移した。

「1回教えたらだいたい覚えるんですわ。『このピッチャーはフォームが大きいからな、盗塁してみ』と言ったら、いいスタートを切って成功するんよ。足は速くなかったけど、感性が鋭いから上手くいった。相手は高校まで野球部でバリバリやってきた人ばかり。ビックリしてましたよ」

岡田少年がキャバレーで歌った夜

　岡田の活躍で勝利を収めると、父は大喜びして「キャバレーに行こう！」とチームメイトと盛り場に繰り出した。彰布少年も同行した。

「当時はステージがあって、オーケストラ（バンド）が演奏していた。お客さんが壇上で歌って、上手いとビールをくれた。お父さんが息子に『野球は度胸や。今のうちに度胸をつけないとあかん、行ってこい！』と命令すると、岡田は『うん』と頷いて、迷いなく行きよったからね。子供だから、舞台に上がっただけで盛り上がった。歌もうまくて、いつもビールをもらって帰ってきたな。ワシらがそれを飲んでいた（笑）」

　小学5年で少年野球チーム『リトルホークス』に入って練習をしながら、難関校で野球の強い私立・明星中学を目指した。見事に合格した岡田は野球部に入部。週3回の練習後、レギュラー陣は岡田の自宅に赴き、ネットの張られた屋上でトスバッティングなどをしていた。勇郎に「練習を見てやってくれ」と頼まれた三宅は、仕事が終わると訪問していた。

「他の子らが疲れて休んでいても、岡田はずっと打ち続けていたな。それだけの体力があったし、みんなが喋っていても黙々と練習していた。甲子園出場という目標があったから、群れなかったんやろな。夜の6時半頃から3～4時間打っていたと思うよ」

現役時代の岡田彰布（29歳）。1986年撮影 ©Makoto Kenmizaki

高校の進路を急遽変更…なぜ？

　付属の明星高校は甲子園の常連だった。プロ野球の2リーグ分立初年度、松竹ロビンスで最多勝や沢村賞に輝いた真田重蔵が監督を務めた63年夏には全国制覇。真田が監督を退いた後も、激戦区である大阪の夏を4度も勝ち抜いていた。

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