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“有言実行ドラ1”も「指名された時は顔に出すなよ」大阪桐蔭・前田悠伍18歳の“映像で伝わらない”表情…背景に西谷監督と兄の助言
text by
間淳Jun Aida
photograph byJun Aida
posted2023/10/27 11:03
ソフトバンクがドラフト1位指名した大阪桐蔭・前田悠伍。プロの世界でどのようなピッチングを見せるか
球威のある速球、どの球種でもストライクが取れる制球力の良さ、牽制やフィールディングを含めた総合力の高さ。前田投手を評する表現は幅広い。だが、本人が大阪桐蔭での3年間で最も成長した部分に挙げるのは「人間力」だ。
「大阪桐蔭に来て、人としての成長を一番学ばせてもらいました。西谷監督からは、人間的に成長できれば野球の技術も上がっていくと教わりました。新チームでキャプテンを任せてもらって、周りを見るようになったり、自分以外のことを考えたりするようになりました」
母いわく「感情が表情に出る子」だったが
1年生の時から大阪桐蔭で公式戦に出ていた前田投手は、高校生とは思えないほど完成度が高かった。その能力を最大限に発揮する土台となる人間性に磨きがかかったのは、キャプテンの経験が大きい。
前田投手は元々、人前に立ったり、集団を引っ張ったりするタイプではないという。小、中学生でキャプテンの経験はなく、学校でも学級委員のようにリーダーシップを発揮する役割とは縁がなかった。両親も兄も「先頭に立つタイプではない」と口をそろえる。
家族が前田投手を表現する言葉で、もう1つ共通しているのは「負けず嫌い」。4歳年上の兄・詠仁(えいと)さんに野球やゲームで負かされると、悔しさを爆発させた。試合で思うような投球ができない時は、マウンド上で自分への怒りをあらわにしたという。
母・由香さんは「感情が表情に出る子でした。大阪桐蔭に入って、マウンドでも取材でもポーカーフェイスをつくるようにしていたのだと思います」と話し、父・孝博さんは「弱音を吐くことはありませんでしたが、キャプテンは大変な部分があったと思います」と気持ちを推し量った。
詠仁さんも「落ち着いて話せるようになりましたし、周りも見えるようになりました。キャプテンをする性格ではないのに、大阪桐蔭での経験が成長につながっていると思います」と弟の変化を口にする。携帯電話が禁じられている寮生活で会話の機会は少なかったものの、2カ月に一度、家族で一緒に食事をするたびに前田投手の成長を家族の誰もが感じていた。
スマホが使えないので周りの声は気になりません
チームメートも前田投手の“変身”ぶりを実感している。