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「ここからは自己満足のために」世界王者・宇野昌磨が宣言した新たなフィギュア観…ランビエル・コーチ「昌磨の芸術性は愛から生まれている」
posted2023/10/18 17:00
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph by
AFLO
スポットライトの中に佇む宇野昌磨は、少し緊張しているようにも見えた。新たな挑戦への決意が、その背中をそっと押す。ゆったりと低い姿勢を保ちながら氷上にトレースを描くと、何かを追い求めるように暗闇の先へと手を伸ばした。
10月7日のアイスショー「カーニバル・オン・アイス」で、今季のフリープログラム「Timelapse/Spiegel im Spiegel」を初披露した宇野。彼が今、欲しているのは、表現者としての覚醒である。
「この2年、自分が思っていた以上の結果を出すことができました。結果には本当に満足しています。けれど、自分の演技に関しては満足できるものが出来ていません。その理由としては、ジャンプ中心のプログラムになってしまっている。自分にとってスケートというものが、何にやりがいを持てるのか、自分が満足出来るのかを考えた先に、これからは表現力を頑張っていきたいと思いました」
周囲から「世界一」の期待を背負い、葛藤
宇野は、言葉を大切にする人だ。彼が“目標”と語ってきた言葉にはいつも、スケート人生を象徴する、大切なキーワードがちりばめられてきた。
2018年平昌五輪で銀メダルを獲得したときは、こう話した。
「五輪への特別な思いはなく、ただ1つの試合でした。ただ、練習してきたことが出せたことが満足です」
順位や点数ではなく“練習の成果を発揮すること”を目標にする、彼の信念を貫いたメダルだった。
しかし五輪後は、周囲からの「次は世界一」という期待を背負い、葛藤した。
あえて「優勝を目指します」と、らしくない宣言もした。2019年には小学生時代から師事してきた樋口美穂子コーチのもとを離れて独立。低迷と試練を経てステファン・ランビエルコーチの門下に入り、再びスケートの楽しさを思い出した。
世界一の練習をすればいい
ランビエルと共に世界一を目指そうと、迷いが吹っ切れた宇野は、言葉を変えた。それが21−22シーズンだった。こんな言葉を口にした。