濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
流血戦でコメント欄炎上も…史上最年少でスターダム・リーグ戦制覇、鈴季すず21歳の“飛び級”人生を支えた「カリスマの言葉」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byEssei Hara
posted2023/10/12 17:03
2023年の5★STAR GP。決勝で舞華を破り初優勝を果たした鈴季すず
決勝戦、声援は圧倒的に舞華に向けられたが…
リーグ戦決勝の相手は舞華。世代闘争で組んできた選手だったが、スターダムでの戦歴は舞華のほうが長い。観客にとっては、それだけ感情移入しやすかった。
舞華は実業団まで柔道に打ち込み、JTOからスターダムに移籍すると、パワーファイターとしてすぐに存在感を示した。ただ実力は誰もが認めているのに、シングルのビッグタイトルには縁がない。今年はタッグパートナーのひめかが引退してもいる。
「ここで舞華に報われてほしい」
スターダムのファンなら、そう思って当然だった。5★STAR GP決勝という大舞台、声援は圧倒的に舞華を支持していた。だがすずは、それが勝因だったと言う。
「自分への声援が少なくて、なんだか初めての感情が出てきましたね。みんなが舞華を応援すればするほど“ニヤリ”みたいな」
フィニッシュは初披露の空中技スカイツイスター・プレス。ロコモーション式ジャーマン・スープレックスをカウント2で返され、秘策が出た。大型の舞華をジャーマンで投げた上に飛び技で決める。オールラウンダーらしい勝ちっぷりだ。
ジュリアは断言「あの子は天才」
練習生時代からすずを知るジュリアは「あの子は天才」だと断言する。普通の選手が何度も何度も練習してやっとできるようになる動きが、すずは一発でできると。しかも練習熱心だ。アイスリボン時代は、思い立つと事務所に併設するリングへ。スマートフォンで動画を撮り、自分の動きをチェックしながら練習した。
プロミネンスを離れ個人で活動するようになってからは、ジムだけでなくレンタルスタジオで技を磨いてきた。減量の話を聞いたのは6月。その時点で「前より動けるので新しい技も身につけたい」と言っていた。
自分でどんどん前に進む。取材での受け答えもしっかりしている。アイスリボンでベルトを巻いたのは17歳の夏だ。要は「できる子」で、「すずは心配しなくても大丈夫」と思わせるところがあった。団体には同い年の選手もいて、年齢相応にファンから心配され、だからこそ可愛がられた。実はすずもよく泣くのだが、芯の強さも同じくらい目立った。ジュリアがスターダムに移籍した直後にはアイスリボンは自分が引っ張ると宣言し、その言葉通りにベルトを巻いた。「まだ若いから」という感覚はなかった。17歳のすずは、こんなことを言っている。
「私は中学を出てすぐ入門して、アイスリボンの職員をしながら試合をしている。学校に通いながらプロレスをしてる選手とは、やっぱり違いますよね。高校生活を知らないから“た、タピオカ？ TikTok？”みたいになったりもするんですけど（笑）。プロレスに専念できてるんですからね」
そもそもプロレスをやるために故郷を離れたのだ。停滞などしていられなかった。20歳の若さでプロレス界の顔になると決めた。女子プロレス界の顔ではなくプロレス界の顔だ。
「男子と闘ったり組んだりしてきましたからね。女子だけじゃなく全部含めたプロレス界の顔になりたい」
