高校のグラウンドでのティーバッティングでは、120m以上もかっ飛ばし校舎3階の窓ガラスを割ったこともあった。校舎の壁にボールをぶつけるのは日常茶飯事だった。そんな佐藤の打棒に気づいたのか、対戦相手のチームたちも徹底した《サトテルシフト》を敷いてきたという。

「セカンドとライトがとんでもない位置にいて（笑）。ライトがフェンスに張り付くくらい後ろに下がって、セカンドがライトくらいの位置にいて……みたいなことがあったりしましたね」

　そうして迎えた3年目の夏の兵庫大会1回戦。桑田と佐藤の最後の夏は予想外の結末を迎える。

　相手は県立明石清水高。決して強豪ではない相手だったが、先発した桑田の乱調もあり、4回終了時で1―11と10点差をつけられた。

　5回2死ランナー無し。この回で点を取らなければコールド負けが決まる場面。バッターボックスに立ったのは佐藤だった。そこまで2打数2安打だった主砲は、しかし平凡なセンターフライに終わる。しかも佐藤はそこで自分が打てなければコールド負けになることを知らなかったという。本人も気づかぬうちに、後の大器にとっての高校最後の夏は幕を閉じていた。

　先発したエースの桑田にとっても、もちろん大きな悔恨の記憶だ。

「いっぱい打たれたし、悔しい終わり方になってしまいました」

ドラフト候補と比べても遜色なかった佐藤だが…？

　ただ、不本意な形で高校野球生活を終えたとはいえ、この頃になるとチームの中でも「テルって、プロ行けるんちゃう？」という声も出てきていたという。

「テレビで夏の甲子園の出場選手を見ていても、みんな『これテルのほうがすごいよな？』みたいな感じで。チームのみんなも、きっとテル本人も、そういう風に思っていましたね」

　とはいえもう季節は高3の夏だ。しかも、最後の県大会は1回戦負け。そのタイミングから急にプロから声がかかるはずもなく、佐藤は関西にある複数の大学の練習に参加していた。ただ、その頃にはほとんどの大学で推薦枠が決まっていたこともあり、芳しい返事はもらえていなかった。

　そんな中で最後に練習参加したのが近畿大学だった。そこで田中秀昌監督（当時）に評価されると、進学後は1年春から中軸として活躍することになる。その後はとんとん拍子に活躍し、3年後の2020年には4球団競合の末、阪神にドラフト1位での入団が決まる。入団後の活躍は多くの人が知る通りだ。

　その一方で、桑田は桑田でこの夏、人生の岐路に立つことになる。

《後編へ続く》

#2に続く

《2020阪神ドラ1》佐藤輝明の元ライバルは“アノ競技”の日本代表に？…パナソニック・桑田理介が語る“テルのすごさ”「2人で日本一になりたいですね」